法改正

労働基準法改正案から年間720時間の「時間外労働の上限規制」や「労使協定」を解説

2017年9月12日

昨日に引き続き、働き方改革に関する法改正案について。

「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」(諮問)(PDF:593KB)(参照:厚生労働省)

今日は、今回の労働基準法改正の目玉といえる「時間外労働の上限規制」について。

 

時間外労働の上限規制が設けられる背景

「時間外労働の上限規制」について説明する前に、これまでの時間外労働に関する規制について軽く説明すると、現行法では実質的に労働時間の上限がありません。

1日8時間、1週40時間という法定労働時間や、それ以上働かせる場合には限度時間の範囲内で、という規制はあるのですが、36協定を結ぶ際に特別条項を付けると、年6回(1回=1ヶ月)に限り限度時間を超え労働時間の上限なく労働者を働かせることができ、あまり意味をなしていなかったのです。

そして、監督署が取り締まれるのはこの36協定に定められた時間を超えた時間働かせた場合だけなので、特別条項の労働時間を大幅に引き上げていたりすると、監督署は指導票でお茶を濁すくらいで、手も足も出ないような状況でした。

(最近ではとある病院がこれを悪用して、特別条項の最大労働時間を「300時間」に設定していたのが発覚し、非難の声が上がっています。)

「時間外労働の上限規制」では、こうした状況を変えるため、一定の労働時間を超えて働かせた会社を取り締まれるよう、超えたら罰則が付く労働時間の天井を設けるための制度となっています。

 

時間外労働の上限規制、4つの天井

4つの上限

時間外労働の上限規制というと「年間上限720時間」というイメージが先行していますが、これは、時間外労働の上限規制のうち、4つある上限の1つでしかありません。

そう、時間外労働の上限規制には4つも上限があるのです。その4つとは以下の通り。

  1. 限度時間、月45時間、年間360時間(1年単位の変形で対象期間が3か月を超える場合は月42時間、年間320時間)
  2. 年間上限720時間
  3. 2ヶ月ないし6ヶ月の平均労働時間、月80時間以内
  4. 単月の労働時間、月100時間未満

(ただし、限度時間を超えられるのは1年間で6回(6か月)まで)

 

1の限度時間とは36協定を結んだ際に延長できる労働時間の上限のこと。

限度時間の時間数は改正前と同じですが、法定化されたことでこれを超えると即違法となります(これまでの「限度時間」法律ではなく、告示で決まっていたので法的拘束力がなかった)。

加えて、期間区分についても1か月と1年の2つだけとされました。

法改正施行後の限度時間

期間区分 原則 1年単位の変形労働時間制で、対象期間が3か月を超える場合
1ヶ月 45時間 42時間
1年 360時間 320時間

法改正前の限度時間

期間区分 原則 1年単位の変形労働時間制で、対象期間が3か月を超える場合
1週間 15時間 14時間
2週間 27時間 25時間
4週間 43時間 40時間
1か月 45時間 42時間
2か月 81時間 75時間
3か月 120時間 110時間
1年間 360時間 320時間

 

2から4については、現行の特別条項の労働時間の上限と考えることができます。

つまり、特別条項で限度時間を超えて働かせられる年6回についても、2から4の上限があり、これを超えて働かせると違法、罰則が付くことになります。

 

分かれる法定休日労働の労働時間の取り扱い

法改正案を見る限り、3と4の時間には「休日労働」の労働時間も含むことが明記される一方、1と2にはそうした記述ありません。

よって、上記の時間に法定休日労働の労働時間を含むかどうかは以下の通りとなります。

法定休日労働時間を含む 法定休日労働時間を含まない
  • 2ヶ月ないし6ヶ月の平均労働時間、月80時間以内
  • 単月の平均労働時間、月100時間未満
  • 限度時間、月45時間、年間360時間(1年単位の変形の場合は月42時間、年間320時間)
  • 年間上限720時間

この法定休日労働を含むかどうか、という話は法改正後に労務管理を行う上でかなり重要となります。

そちらについてまとめた記事があるので、詳しくは以下をどうぞ。

審議会の案から見る残業上限720時間と法定休日労働の関係性

 

変わらず必要となる36協定

労働基準法で定められている法定労働時間は1日8時間、1週40時間となっていて、これ以上働かせる場合は通称・36協定と呼ばれる時間外労働・休日労働に関する労使協定を結ぶ必要があります。

時間外労働の上限規制が導入されてもこの36協定の締結が必要なことに変わりはありません。

そして、上限規制後に協定を結ぶ際、必ず記載する必要のある項目は以下の通り。

  1. 36協定の対象労働者の範囲
  2. 有効期間(期間は1年間に限る)
  3. 労働時間を延長、又は休日に労働させる場合はどのようなときか
  4. 対象期間中の1日、1ヶ月、1年、それぞれの期間について延長させることができる労働時間及び休日日数
  5. 省令で定める事項

 

 

現行の36協定から変更等が行われる項目

現行のものと異なる部分があるのは上記の2と5。

まず、2の協定の有効期間に関しては、これまで36協定の対象期間は法律上、特に決まりはありませんでした。

通常どこの会社でも期間は「1年間」となっていますが、これは法律上決まっているものではなかったのです。

しかし、法改正後は「1年間」に限られることになり、3ヶ月や半年といった1年以外の期間を定めることはできなくなります。

5に関しては、限度時間を超えて労働した労働者に対するものが主で、

  • 限度時間を超えて労働した労働者の割増賃金率
  • 限度時間を超えて働く場合の手続き
  • 限度時間を超えて労働した労働者の健康確保措置
  • 2ヶ月ないし6ヶ月の平均労働時間は月80時間以内であることの定め

を記載する必要があります。健康確保措置については今後示される指針で望ましいとされる措置が公表されるようです。

 

特別条項

法改正案には「特別条項」という言葉はなく、上記の通り、36協定で定めないといけない項目にも入っていません。

ただ、限度時間を超えて労働させる場合に、36協定であらかじめ定めをしておく必要があることには変わりはありません。

限度時間を超えて労働させる場合について、改正案では以下のように規定されています。

当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に3の限度時間を超えて労働させる必要がある場合

「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」(諮問)(PDF:593KB)(参照:厚生労働省)

特別条項では、限度時間を超えて働かせられる労働時間を設定する必要がありますが、その数字は当然、単月で見た場合は100時間未満、年間で見た場合は720時間に収まるようにする必要があります。

ただ、月では法定休日労働の労働時間を含めるものの、年間では含めないというトリッキーな規制なので、現行の特別条項付き36協定のフォーマットをそのまま使えるかは不明。

労働局等がどのような書式を出してくるか待つ必要がありそうです。

限度時間を超えられる回数が年6回(6か月)なのも現行通りです。

 

上限規制の適用除外・適用猶予

時間外労働の上限規制については以下の通り、適用除外もしくは適用猶予となる業種があります。

 

適用除外

新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務

 

適用猶予

  1. 工作物の建設等の事業
  2. 自動車の運転業務(タクシーの運転手やトラックの運転手)
  3. 医師
  4. 厚労省の定める業務

3の医師以外は、もともと限度時間の適用除外とされていた業種です。

また、これらのうち建設業、自動車の運転業務(タクシーの運転手やトラックの運転手)、医師の3つについては、厚労省の定める業務については3年間は、上限規制の適用除外となります。

そして、適用猶予の業務については法律施行から5年間(2024年3月31日まで)がその猶予期間となります。

また、厚労省の定める業務とは、鹿児島県及び沖縄県における砂糖の製造事業をいいます

 

今回は以上です。

今日のあとがき

時間外労働の上限規制については、新情報が出る度、泥縄式に解説してきたので今回の記事は、正直、過去記事と被る内容も多いのですが、今回が集大成ということでご容赦を。

似たようなことばかり書いてると、書いてる方が飽きるということもありますが、Google先生がコピー記事と判断してSEOの評価を下げるのでは心配になるので、できればもう書きたくないかなあ、というのが本音のところ。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 3冊の著書のほか「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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