みなし労働時間制・裁量労働制

平成29年臨時国会で成立の目処が立った高度プロフェッショナル制度を解説

2017年7月18日

ようやく「高度プロフェッショナル制度」を含む労働基準法の改正が行われそうです。

それにより、連合(日本労働組合総連合会)は、仲良しこよしだった朝日新聞を中心に叩かれておりますが、わたし個人は現実的な判断をしたと思っています。

というのも、今回の労基法の改正というのはかれこれ2年前から予定のあったもので、直近で話題になった時間外労働の上限規制を含む改正とは別物。

そして、働き方改革実行計画案では「高度プロフェッショナル制度」を含む改正を行った後に時間外労働の上限規制を含む改正を行うとされていました。

つまり、この労基法の改正が終わらないと時間外労働の上限規制にはいけないわけです。

過去に過労死されてしまった労働者の多くは、「高度プロフェッショナル制度」のような働き方とは無縁な代わりに、時間外労働の上限規制があれば助かったかもしれないという人たちです。

となれば、「労働者の見方」である連合が何を優先するかは明確だと思うのですが、何もかもが自分たちの思い通りにいかない気にくわず、結局はかんしゃくを起こすキッズなメディアにはそれがわからないようですね。

 

「労働時間」から労働者を自由にする制度

まあ、メディア批判これぐらいにして、今回はこの高度プロフェッショナル制度について解説していきたいと思います。

過去から現在に渡って、ホワイトカラーエグゼンプションとか脱時間給とか残業代ゼロとか呼ばれていたものは、この高度プロフェッショナル制度と全て同じものです。

高度プロフェッショナル制度とは一般には労働時間ではなく成果に応じて賃金を支払う仕組みと説明されることが多いですが、もっとより正確な言い方をすれば「一切の労働時間管理をしない労働者」というのが正しいかと思われます。労働時間という概念のない労働者、と言ってもいいでしょう。

というのも、実は、現状の労働基準法ではどのような賃金制度や労働時間制度であっても、完全に労働時間と賃金を切り離すことはできません。

裁量労働制の場合も「みなし労働時間」を決める必要があるし、管理監督者であっても深夜労働したら深夜手当が必要といった具合です。

しかし、高度プロフェッショナル制度対象の労働者に関しては労働時間そのものの適用が除外されるため、時間外手当、休日手当、深夜手当といった労働時間とリンクして支払われる法的な手当の支給は行われません。(悪意ある解釈により)残業代ゼロと呼ばれる所以です。

 

年収要件と対象業務要件により、対象となるのはごくわずか

もちろん、全ての労働者にこの高度プロフェッショナル制度が適用されるわけではありません。全ての労働者が高度なプロフェッショナルなわけではないですからね。

その労働者が労働時間という枠組みでは計れない高度なプロフェッショナルであるという判断に関しては、行う業務と年収要件によって判断します。

対象となる業務と年収要件の詳細についてはまだ正式に決まっていませんが、以下のようになるといわれています。

  • 対象業務:金融ディーラー、アナリスト、コンサルタント、研究開発職など
  • 年収要件:1075万円を基準に要検討

蛇足覚悟で付け加えておくなら、某居酒屋チェーンの過労死事件の被害者や、電通の新入社員の女性が上記の条件に当てはまりますか? という話です。

メディアもバカじゃないんだったら過去の過労死事例と高度プロフェッショナル制度の対象者の比較くらいした方がいい(ついでに、上限規制で助かる可能性があったかどうかも)。

 

連合は健康管理の強化を交渉材料に折れた

また、高度プロフェッショナル制度については、会社は何の管理もしなくていいというわけではなく、対象者が働き過ぎないよう健康管理を行う必要があります。

そして、当初は以下のいずれかのうち1つを実行すればいいという方向性でしたが、

  1. 24時間について継続した一定の時間以上の休息時間の確保(実質的なインターバル)
  2. 1ヶ月について一定の時間を超えないよう健康管理時間を設ける(実質的な上限規制)
  3. 4週間を通じ4日、かつ、1年間で104日以上の休日を確保

今回、連合側が「折れる」条件として3の「休日確保」を義務化。その上で、

  • インターバル
  • 上限規制
  • 2週間連続の休暇
  • 臨時の健康診断

上記のいずれかを選択する、という制度にすることを政府に要請、政府もこれを飲むようです。

 

以上です。

来年4月1日の施行を目標に今年の臨時国会で改正案が提出される予定です。

ちなみに、それ以外の改正についてはこちらの記事を。

有給の強制取得や残業割増率5割など、2017年以降に改正されるはずの改正労働基準法を解説

 

追記:これを書き終えてすぐに雲行きが怪しくなるという・・・

「脱時間給」19日の政労使合意延期 連合で慎重論相次ぎ

今日のあとがき

三連休はアメリカで行われた世界最大の格闘ゲームの大会「EVO」を見てました。

今年のEVOは9つのメインタイトルがあったのですがその中でも最も注目度の高かったのがストリートファイター5。

現在のストリートファイター5のシーンではアメリカのPUNKという若干19歳の選手が名実ともに世界一といわれていて、過去の大会でも日本のプロゲーマー(だいたいアラサー)たちが束になってもかなわないという状況でした。

EVOは約2600人が参加する巨大なトーナメントということもあり、不運やミスで有名プレーヤーが思わぬところで負けてしまうことがあるのですが、PUNKは一度も負けることなく決勝へ。

そして、決勝の相手は日本の「ときど」。東大卒プロゲーマーでした。

格ゲーのトーナメントではダブルエリミネーションと呼ばれる敗者復活制を採用していることが多く、このルールでは、トーナメントで2回負けたら敗退となります。

そして、最後の決勝は一度も負けてない「ウィナーズ」とすでに一度負けた「ルーザーズ」の勝者が戦うことになるのですが、この場合も「ウィナーズ」側はトーナメント中一度も負けてないので、1回までは負けてもいいという条件になります。つまり、「ウィナーズ」側が圧倒的有利なわけです。

今年のEVOの決勝はウィナーズがPUNK、ルーザーズがときど。

そして、ときどをトーナメントの途中でルーザーズに落としたのは誰あろうPUNK。

誰もがPUNKが勝つであろうと思われた試合で、ときどはなんと2連勝しての優勝。

さすがにグッとくるものがありました。

圧倒的不利を覆したのもそうだし、わたくしごとながらときどが自分と同い年というのもそう。

そして、ときどの、PUNKと同じキャラを使用する友人マゴがいたおかげで勝てた、という勝利者インタビューも最高にかっこよかった。

負けたPUNKはPUNKでこれまでの不遜な態度が嘘のように表彰式では涙を流していて、これまた見てる方は涙。

これ以上書くと本編より長くなりそうなので、これくらいにしておきますが、たかがゲームかもしれないけど、されどゲーム、僕はゲームが大好きです。

去年のEVO見て買ったけど、わたしには才能がなかった。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 3冊の著書のほか「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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