労務管理と行動経済学

なぜ人は「不満の理由」を間違えるのか(労務管理と行動経済学)

2015年7月22日

飛行機やその事故を恐れる人は多いですが、でも、実際に事故が起こる確率や死亡する可能性が高いのは自動車の方です。しかし、飛行機ほど自動車は世の中の人に恐れられていません。

その理由としてまず、飛行機よりも自動車のほうがより身近で(親近感バイアス)、自分でコントロールできるものだから(コントロール幻想)という点が挙げられます。

加えて、自動車事故と比較して、飛行機の場合、一度事故が起こると(非常に珍しいこともあって)連日のようにマスコミが騒ぎ、人々の印象に残りやすいという理由もあります。心に刻まれた印象や思い出しやすい事象が、実際に事故が起こる確率を無視させるのです。

利用可能性ヒューリスティック

こうした思い出しやすい事柄を優先して物事を判断してしまう心理的現象を、利用可能性ヒューリスティックと言います。

昔、とあるテレビ番組で煙草の害について、爆笑問題の太田光が長寿世界一だった泉重千代がヘビースモーカーであったことを例にとって、煙草の害について疑問を投げかけていましたが、例外的とも言える、けれども印象に残っている一例によって、客観的な事実を軽視しており、これも利用可能性ヒューリスティックの一種と言えます。

その不満の原因はほんとうに正しいのか

さて、最近では、ほかと比べて特段労働環境が悪いわけでもないのに、会社が労働基準法をきちんと守ってなかったり、きちんと残業代を払っていないことに不満を持つ人が増えている気がします。(明確なデータを出せないので、これもわたしの利用可能性ヒューリスティックによる結論と言われればそれまでですが)

これは、数年前からブラック企業という言葉が浸透し、労働者の側が労働法のことをよく知るようになったことが大きな理由と考えられます。

つまり、会社が労働基準法をきちんと守ってなかったり、残業代をきちんと支払っていないことが悪いことであることであることが労働者に認知されると同時に、利用可能性ヒューリスティックとして(当然、無意識的に)使われることが増えたから、と考えられるわけです。

しかし、ヒューリスティックとはそもそも「必ず正しい答えを導けるわけではないが、ある程度のレベルで正解に近い解を得ることができる方法(参照Wikipedia)」に過ぎません。その代わり、答えが出るまでの時間は通常の論理的な考え方よりも早いのが特徴です。(飛行機と自動車の事故確率を調べるには、ネットを使っても数十秒から数分はかかるでしょうが、利用可能性ヒューリスティックなら一瞬です)

よって、そのようなヒューリスティックによって結論づけられた不満の原因としての労働基準法違反や残業代未払いが解消されたとしても、彼らの不満が解消されるとは限りません。

彼らがストレスに感じている不満の原因は、本当は自分の能力不足や、同僚の出世、自分の評価や業務への不満やそれらを複雑に組み合わされたものかもしれないのに、利用可能性ヒューリスティックによって、その不満の原因を取り違え、労働基準法違反や残業代未払いだと思い込んでいるだけかもしれないからです。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 3冊の著書のほか「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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