労務管理と行動経済学

能力や貢献度に合わせて賞与を支払うのは適当か(労務管理と行動経済学)

2015年6月3日

賃金制度について、月々の給与はある程度固定だけど、その代わり、賞与では労働者ごとの貢献度や能力に見合ったものを支払いたいという経営者の方は少なくありません。また、労働者の側からしても、月々の給与があまりに上下に変動すると、毎月決まっている様々な支払いに支障をきたす可能性があり、生活が不安定となる可能性がある一方、自分の能力がまったく賃金に反映されないのはあまり面白くないので、こうした方法は好まれます。

では、こうした支払い方法で、賞与をより多くもらうために会社に貢献しよう、能力を磨こうと労働者が毎日の業務を頑張ろうとするかというと、これにはやや疑問があります。なぜなら、人間には双曲割引と呼ばれるバイアスがあるからです。

双曲割引というのは、遠い将来の利益よりも、今目の前の利益を優先してしまう人間の特性です。例えば、それなりの収入があるのに貯金できない人っていますよね。今と同じように働くことができなくなるであろう老後のことを考えたら、きちんと貯金しておくべきなのにも関わらず、です。こうした人たちは今現在の利益と遠い将来の利益を秤にかけ、今現在の利益を優先してしまっているのですが、これが双曲割引です。

双曲割引を考慮すると、労働者に仕事を頑張ってもらうには、その頑張りに対して会社はできるだけ早く金銭や評価という形で応えた方がいい。なぜなら、頑張りに対する利益を得るのが先になればなるほど、その利益の価値を労働者が低く見積もってしまい、仕事を頑張るインセンティブとしての効果が薄まってしまうからです。

これは子供の学習効果とインセンティブの実験でも証明されていて、金銭・非金銭を問わず、インセンティブを与える時期がテストのすぐ後と1か月後だと、前者のほうがより学習効果が高く(つまり、成績が上がった)、後者ではその効果が殆ど見られなかったそうです。

そう考えると、頑張れば賞与が上がるよ、という形で労働者のモチベーションを高めるのは難しいかもしれません。なぜなら、賞与というのは通常半期ごとに支払われるのが一般的で、夏の賞与が7月払の場合、3月や4月にがんばっても結果が出るのは3ヶ月後や4ヶ月後になってしまうからです。

一応、勘違いがないように書いておくと、能力や貢献度に応じて賞与を支払うのは意味が無いとか間違っていると言いたいわけではありません。ただ、言い方は悪いですが、鼻先のニンジンのように使うには賞与では効果が薄い、という話です。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 3冊の著書のほか「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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