労務管理と行動経済学

「3割負担」?「7割給付」? (労務管理と行動経済学)

2015年4月21日

病院で診療を受けた際、保険内であれば、わたしたちが通常支払うのは実際に掛かった医療費の3割分だけです。いわゆる「3割負担」というやつです。

しかし、この「3割負担」という言い方、行動経済学の観点から見ると、けんぽ協会や国保の保険者である地方自治体にとっては、なんとも損な言われ方です。 同じ意味なら「7割給付」の方が有り難みがありますからね。

いやいや「3割負担」も「7割給付」も別に変わらないだろうと思う事なかれ。これは以前にも紹介した「フレーミング」 の問題で、例えば、

(1) この手術による生存率は90%である

(2) この手術による死亡率は10%である

と医者から言われた場合、(1)のみを言われた患者と(2)のみを言われた患者とでは、手術を受けることを選んだ人の割合は(1)が84%である一方、(2)の場合では50%と、両者に大きな差が出ます。

これと同じで、「3割負担」と言われるのと「7割給付」と言われるのとでは、医療を受ける側の気持ちや感じ方は変わってくるのは明白です。

特に、「1割負担」という言葉で法律制定時に大きな波紋を呼んだ後期高齢者医療制度にしても、「1割負担」だと確かにお年寄りに1割も負担してもらうなんてとんでもない、という印象を受けますが、「9割給付」と言われると9割も負担してもらって何言ってるの? と思ってしまうから人の感じ方というのは不思議なものです。

なので、けんぽ協会や地方自治体は健康保険制度の広報資料やマスコミの報道に対しては、3割負担や1割負担なんて言葉は使わず、7割給付や9割給付という言葉を使うことを徹底したほうがいいのでは、と思うのですがね。

ただ、この3割負担の呼び方って健康保険法や国民健康保険法の条文にある「一部負担金」から来てると思われるので、なかなか変えられないのかもしれませんが。

以下は健康保険法第74条の条文です(太字は筆者による)。

(一部負担金)
第七十四条  第六十三条第三項の規定により保険医療機関又は保険薬局から療養の給付を受ける者は、その給付を受ける際、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該給付につき第七十六条第二項又は第三項の規定により算定した額に当該各号に定める割合を乗じて得た額を、一部負担金として、当該保険医療機関又は保険薬局に支払わなければならない。
一  七十歳に達する日の属する月以前である場合 百分の三十
二  七十歳に達する日の属する月の翌月以後である場合(次号に掲げる場合を除く。) 百分の二十
三  七十歳に達する日の属する月の翌月以後である場合であって、政令で定めるところにより算定した報酬の額が政令で定める額以上であるとき 百分の三十
2  保険医療機関又は保険薬局は、前項の一部負担金(第七十五条の二第一項第一号の措置が採られたときは、当該減額された一部負担金)の支払を受けるべきものとし、保険医療機関又は保険薬局が善良な管理者と同一の注意をもってその支払を受けることに努めたにもかかわらず、なお療養の給付を受けた者が当該一部負担金の全部又は一部を支払わないときは、保険者は、当該保険医療機関又は保険薬局の請求に基づき、この法律の規定による徴収金の例によりこれを処分することができる。
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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 3冊の著書のほか「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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