年次有給休暇

有給よりも根深い代休と変形労働時間の問題

2015年4月15日

法律上、特別な定めはないものの日本の労務管理の場で非常にメジャーなものに代休があります。よく似たものに振替休日がありますが、両者には、振替休日が事前に労働日と休日を入れ替えるのに対し、代休は休日労働後に労働日と休日を入れ替えるという違いがあります。

では、なぜ、代休が多用されるのかというと、日本の労働時間法制には柔軟性や弾力性がほとんどないからです。

 

代休が有給取得の妨げに

例えば、突発的な受注等で急に業務量が増えた際に、休日労働してもらわないと会社が回らない、けれども、労働者には一段落ついたら休日労働分もきちんと休んでほしい、となったときに1日と1週間の両方で労働時間を規制されている日本の法定労働時間や、事前に届け出が必要な変形労働時間制度では対応できません。

しかし、代休を導入している会社が、休日労働をした労働者に代休をきちんと与えられているかというと必ずしもそうではないのが現状です。

というのも、代休を与える場合、その日を会社が指定する場合と、労働者に指定させる場合があるのですが、後者の場合、労働者が代休日を指定しないことがあるからです。

これを避けるため、労働者に代休日を指定させる会社の中には、代休の取得をもって、その代休の原因となった休日労働分の給与を支払う会社もあります。

代休を取得することにインセンティブを与えようというわけで、制度としてはもう完全に有給と同じです。

しかし、有給と決定的に違うのは、このような場合、労働者が代休を取得しないと、休日労働分の給与を支払えないことです。

つまり、場合によっては給与の未払いが発生してしまうわけです。

また、労働者が代休を取得したり、一定期間ごとに未払い分を精算したとしても、休日労働した日を含む月と給与を支払った月が異なると、賃金の全額払いの原則の違反になってしまいます。

こうした事情もあって、会社によっては有給よりも代休の取得を優先させる会社もありますが、代休を消化しきらないと結局は有給も取得できないわけで、有給取得を妨げる隠れた要因になっています。

もちろん、このような問題は会社なり管理職なりがきちんと代休日を指定すれば済む話ではあるのですが、ただ、本来は休日労働させたからといって会社は代休を与える義務はなく、その一方で、労働者の健康のことも考えれば代休はあったほうがよく、代休を与えない会社よりは与える会社のほうがいいのは明らかで、そうした会社をわたしは頭ごなしに批判したくありません。

 

業務の繁閑に対応できない変形労働時間制度

そもそも、日本の会社が、このように代休で業務の繁閑に対応しないといけないのは、冒頭でも述べたように日本の労働時間制度に柔軟性や弾力性がほとんどないからです。

例えば、欧米の主要国で日本のように1日と1週間の両方で労働時間を規制している国はあまりありません。アメリカは週の法定労働時間が40時間なのは日本と同じですが、1日の法定労働時間はありません。

イギリスも同様で、17週の基準期間ごとに各7日平均で48時間が労働時間の上限とされています。

逆にドイツは週の法定労働時間の定めがなく、1日の法定労働時間が8時間と定められています。

ただし、6ヶ月の期間内で1日の平均労働時間が8時間であれば、最長で1日10時間まで働かせても良いことになっています。

また、変形労働時間制度にしても、日本のようにわざわざ行政に届出をさせるということもありません。

というより、上記のイギリスやドイツの例を見ればわかるとおり、業務の繁閑に応じて労働時間を変形させることを前提に制度ができているのです。

社会に出て働いたことのある人なら誰でも知っていることですが、仕事には繁閑、つまり、忙しい時と暇な時が必ずあります。また、どちらも予想できない時期にそうなることが多々あります。

どのような仕事にも時間に応じて賃金を支払う、というのが時代に合ってないと批判されて久しい労働基準法ですが、業務量に応じて柔軟に労働時間を変形できない、という点でも全く時代に合ってないと言わざるをえないでしょう。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 3冊の著書のほか「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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