エイベックスやヤマトで話題の「未払い残業代」って何? 発生する原因は? を解説
GWがあったので、なんだか随分前のような気がしますが、GW前はエイベックスやヤマト運輸の「未払い残業代」が大きな話題になっていました。
「未払い残業代」というのはその名の通り、支払いが行われていない残業代のことです。
残業代が支払われないことに関して「会社が悪い」と一刀両断してしまうのは簡単ですが、必ずしもそうとは言えないケースもあります。
言い換えれば、会社としてはきちんと払っているつもりでいたのに、法律に照らし合わせてみると払っていない、ということも起こりえるわけです。
そうした「思わぬ未払い」を防ぐため、言うなれば監督署の調査や労働者からの申告から会社を守るためにも、今回はこの「未払い残業代がどうして発生するのか」について解説したいと思います。
この記事の目次
そもそも「残業代」って?
「未払い残業代」を知るにはそもそも「残業代」ってなんぞや? ということを知らないといけません。
「残業代」とは「1日8時間、1週40時間」の法定労働時間を超えて働かせた時間に支払われる賃金のことをいいます。
そして、法定労働時間以上働かせる場合は、36協定の締結と通常の賃金の1.25倍以上(大企業で月60時間超働かせる場合は1.5倍以上)を支払う必要があります。
つまり、「1日8時間、1週40時間を超えて働かせたら通常の賃金の1.25倍以上を支払う」というのが「残業代」なわけです。
よって、「1日8時間、1週40時間を超えて働かせたら通常の賃金の1.25倍以上を支払う」ことができていれば、残業代が「未払い」になることはないということになります。
では、なぜ「1日8時間、1週40時間を超えて働かせたら通常の賃金の1.25倍以上を支払う」ことができず「未払い」となってしまうのでしょうか?
要因① 労働時間管理が適正に行われていない
「1日8時間、1週40時間を超えて働かせたら通常の賃金の1.25倍以上を支払う」には、会社が個々の労働者が1日8時間、1週40時間を超えて働いてないかどうか把握する必要があります。
誰が何時間働いたかなんてタイムカードを見れば簡単にわかりそうなものですが、実際には「誰が何時間働いたかがわからない」のではなく、「誰が何時間働いたかをないがしろにしている」がゆえに、未払い残業代が発生しているケースが多いです。
代表的なのは、会社や上司の命令や、職場の空気などによって、業務が終わってないのにタイムカードを打刻させられる、いわゆるサービス残業がそれです。
また「固定残業代」を支払うことで、残業代を固定費にすれば、労働時間管理をしなくていいと考えている経営者は今でも少なくなりません。しかし、現実には「固定残業代」の計算の元となる残業時間を超えて残業した場合、その分の残業代を支払う必要があるため、固定残業代だからといって労働時間管理を怠る未払い残業代の発生の原因となります。
他にも「事業場外みなしの不適切な利用」や「名ばかり管理職」など、会社の判断で労働時間管理が不要と思っていたら、実際には必要だったとして、未払い残業代の発生ということが起こりえます。
よって、どんなに面倒でも、どんなに不都合でも、未払い残業代の発生を避けるなら、会社は労働者の個々の労働時間というのはきちんと把握した方がいいし、各種便利な制度を利用するなら専門家の力を借りた方が賢明かと思われます。
要因② 「通常の賃金」を間違えている
「1日8時間、1週40時間を超えて働かせたら通常の賃金の1.25倍以上を支払う」には、通常の賃金がいくらか計算しないといけません。
そのためには、通常の賃金の1時間あたりの額(これを残業単価といいます)を求める必要があります。
この残業単価が実際よりも少ない方に間違っていると、未払い残業代発生の原因となります。
実は、残業代を求める上で、この通常の賃金に含める必要のないものがあります。
それが以下の7つ。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われる手当
- 1ヶ月を超えて支払われる手当
この7つは限定列挙、言い換えると、上記のもの以外はすべて通常の賃金に含める必要があります。
しかし、実務上は往々にして、上記の7つに当てはまらないにもかかわらず、様々な手当が残業単価に含まれていないことがあり、未払い残業代の発生の原因になりえます。
要因③ 法令が複雑で把握し切れていない
残業代の額を決める要素は、労働時間と賃金と割増率の3つしかありません。
割増率については法定で下限が決まっている上、一度決めてしまえば変動することもないので、実質的には労働時間と賃金が決まれば、残業代の額は決まるし、それをきちんと支払えば「未払い」になることもない。
にもかかわらず、未払い残業代が発生するのは複雑なことをしようとして、きちんとそれが運用できていない、という場合が多いです。
例えば、一昔前に問題となった「名ばかり管理職」。
これは「労働基準法上の管理監督者であれば残業代は不要」というのを「役職者であれば残業代は不要」と、誤った解釈をしたのが原因でした。
とはいえ、会社を責められないのは、名ばかり管理職や、要因①や要因②に上げたようなことを、労働法の専門家ならともかく、普通の経営者や人事労務担当者の方が完璧に把握することは難しいと考えられるため。こうした法理解の難しさも未払い残業代の発生の原因になっていると考えられます。
要因④ そもそも支払う気がない
これは「未払い」というよりは「不払い」と呼ぶべき事案ですが、上でも少し出てきた「サービス残業」の強要などがそれに当たります。
しかし、会社にいくら支払う気がなくても、法律上は労働者に権利の発生している債権のため、法的手段に訴えられたら逃れるすべはありません。
以上です。
思わぬ見落としによるわずかな未払い残業代も、労働者の人数や期間によっては雪だるま式に膨らむ可能性があるため、注意が必要です。
今日のあとがき
今回は未払い残業代の発生の「要因」を分析することに注力したため、個々の未払い残業代の発生を、いかに防ぐかについては、省略させてもらいました。
ただ、いくつかの事例については過去に記事にしているのでそちらを参考にしていただければと思います。