労務管理と行動経済学

好ましくない結果への証明の必要性 (労務管理と行動経済学)

2015年2月17日

こんな実験があります。

医療検査と称し集めた被験者に検査用の試験紙と偽ったものを渡しそれに唾液を落としてもらいました。

ただし、被験者の半数には試験紙が10から60秒のあいだに色が緑に変わったら酵素欠損症である(A)と伝え、もう半数には10から60秒のあいだに色が緑に変わったら酵素欠損症でない(B)と伝えました。

すでに述べたように、この試験紙は偽物ですから、色が変わることは決してありません。つまり、確定で、Aの被験者は「あなたは健康です」という検査結果になり、Bの被験者は「あなたは酸素欠乏症です」という検査結果になるわけです。

興味深いのはAとBではBの被験者たちのほうが、試験紙の前で色が変わるまで待つ時間が長かったことです。つまり、Aの被験者は色が変わらないので自分は酵素欠損症ではない、とさっさと判断したが、Bの被験者たちは自分が病気でない(試験紙の色が変わる)という結果をいつまでいつまでも待ち続けたわけです。

言い換えれば、この偽りの試験紙を使った実験で、Aの被験者は自分が健康であることをさっさと信じた一方、Bの被験者たちはなかなか信じなかったわけです。

信じたいものを信じる

「人は自分の信じたいもの信じる」とはよく言ったもの、というのがわかる実験ですね。

逆に自分の信じたくないことに関してははじめから信じないか、信じるにしても多くの時間と様々な証拠を必要とします。実際、Bの被験者たちは自分が病気であることをなかなか信じられませんでした。

例えば、去年から続くSTAP細胞騒動でいえば、STAP細胞が発見されたと日本中が大騒ぎになったとき、あまり良くない感情(単純に小保方晴子が気に入らないみたいな、妬みやそねみを含む)を持った人ほど、その後の騒動の経過を簡単に信じたでしょうし、逆に好意的な感情を持った人ほど、その後の経過を信じるのは難しかったはずです(中には陰謀論に走る人も・・・)。

労働者にとって信じたくないこと

さて、労働者が使用者に言われてもなかなか信じたくないことといえば、解雇や減給、降格でしょう。「労務管理と行動経済学」ではどれもおなじみのものばかりですね。

そして、人間が「信じたいものは簡単に信じるが、信じたくないものを信じるには多くの証拠や時間が必要となる」という特性を持つとなると、使用者が労働者に対してこのような取り扱いをする場合、きちんとその根拠となる規則や事実、そして、そうしたことがあったことを証明する証拠がなければ、揉めるのは当然というわけです。

奇しくも、解雇や減給、降格を行う場合「根拠となる規則や事実、そして、そうしたことがあったことを証明する証拠」が必要なのは、労使間の争いが、労働審判や裁判の場に出て行った場合も同様ですが、あらかじめ、労働者にとって不利益な扱いとなることを行う場合の体制がきちんとできていれば、職場の仲間同士だったものが司法の場で争うということもそうそうないのでは、と思います。



 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 3冊の著書のほか「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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