労務管理と行動経済学

面接の場はバイアスの独壇場 (労務管理と行動経済学)

2015年1月22日

あなたはコンビニの店長です。

バイトが辞めたので、数人を面接後、そのなかの1人を採用しました。

採用したアルバイトは市内の有名大学に通う女子大生で、非常に可愛らしく、面接のときの受け答えや態度も他の候補者よりも優れているように感じました。勉強もできるみたいだし、可愛い子がいると店内も華やぐし、面接でこれだけ喋れるなら接客も大丈夫だろうとあなたはこの子なら間違いない、と思い採用したのです。

しかし、いざ働き始めると仕事の覚えが悪く、レジ打ちでのミスも多い。一緒に働く先輩アルバイトの不満は溜まる一方です。

そんななか、あなたは徐々にこんなことを考えるようになりました。

「そういえば、数年前に雇ったAやそのすぐ後に雇ったBも有名大の学生だったけど、できが悪かったやっぱり、高学歴は使いものにならないんだな。

結局、その女子大生は2週間ほどで自主的に退職していきましたが、あなたは今後、有名大の学生を雇うのはやめようと心に誓ったのでした。

ハロー効果と2つのバイアス

実は上記の短いお話の中に、行動経済学にまつわる心理的な効果やバイアスが3つもでてきています。

1つ目はみなさん、おそらく名前くらい聞いたことあるかもしれませんね、「ハロー効果」。わたしが参考書として使っていた社労士受験の本にも載っていました。

「ハロー効果」とは、ある一部分だけを見て、その全体を判断してしまうという効果です。上記の例で言えば、この子は高学歴だから、美人だから、面接が上手いから、「ハロー効果」により仕事ができるに違いないと思ってしまったわけです。

2つ目は「後知恵バイアス」です。上記のお話の序盤で店長はバイトの女子大生が「高学歴」であることを好意的に受け止めていますが、彼女が働き始め、仕事で使い物にならないとわかると、「高学歴」に対して悪い印象を持ち始めました。

このように、仕事で使い物にならないとわかった途端、つまり、なんらかの結果が出た途端に、自分の評価や考えを自分でも気づかないうちに変更してしまうのが「後知恵バイアス」なのです。STAP細胞の捏造がわかった途端に、「前からあやしいと思ってた」とか言い出す飲み屋の親父なんてこの典型ですね。

そして、3つ目は「確証バイアス」です。店長は、「後知恵バイアス」により、知らず知らずのうちに「高学歴は使いものにならない」という考えを持つと、そういえば、ということで同じように有名大学に通っていた出来の悪いアルバイトたちのことを思い出しています。

このように、自分の考えの確かさを立証するためにそうした自分の意に沿う情報ばかりを集め、それ以外の情報を無視するのが「確証バイアス」なのです。もしかしたら、過去に同じ有名大学に通う子ですごく仕事のできたアルバイトだっていたかもしれないのに、上記の店長の頭の中に彼らの存在はいないことになっています。

客観的に物事を見るほど難しいことはない

バイアスというのは日本語に訳すと「偏り」という意味ですが、このように見ていくと、人間の見方や考え方がいかに偏りやすいかがわかります。

しかし、こうした偏りはときに致命的な損失を生みます。

例えば、後知恵バイアスで物事を考えることになると(世間一般の多くの人は特に意識なくそのように考える)、外科手術の場合、どのような外科手術を行うかの決断時の状況よりも、手術の結果が最重要視されることになります。

一時期、医療事故がメディアで積極的に取り上げられていた時期があり、結果、そうしたリスクの高い外科医の減少を招きましたが、これは、手術の結果や最中のミスばかりに焦点を当て、術前の状況を考慮に入れずにセンセーショナルに報道し続けたメディアと、「避ける事ができただろう」という後知恵バイアスのもと判決を出し続けた裁判所の影響が大きかったのではないでしょうか。

面接の話に戻せば、面接で求職者のすべてを知ることは当然の事ながら不可能です。そのため、求人側と求職側の間には絶対に情報の非対称性が生まれます。そのため、どうしても限られた情報の中で相手のことを判断しないといけない。ここにハロー効果が生まれる余地ができる。

これ自体はどうしようもないことですが、このことに自覚的かどうかでその後の結果は大きく変わってきます。ハロー効果に自覚的であれば、ハロー効果の影響を受けづらくなりますし、面接の場がハロー効果の影響を受けやすいとわかっていれば、そうした影響を受けづらい面接や選考方法を考えることができます。確証バイアスや後知恵バイアスも同様です。

特にこの3つは人事考課などの場面でも顔を出しやすいバイアスなので注意が必要です。

以上で、今回の記事は終わりですが、ここまで読んでいただいた皆さんは、まさか、この程度のこと、こんな記事で読まなくても知ってたよ、なんて思っていませんよね?

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 3冊の著書のほか「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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