時間外労働

「月平均60時間」は嘘?「残業上限年720時間」時代では年間の労働時間の配分を決める重要性が高まる

2017年3月14日

追記:時間外の上限規制については最新の情報をまとめた以下の記事もあるので、そちらもご確認いただければと思います。

年間上限720時間となる時間外労働の上限規制とは?(2017年07月12日ver)

繁忙期の残業について「月100時間」がほぼ決まりになるなど、「残業上限年720時間」についての方向性がだいぶ見えてきましたね。

残業上限「月100時間未満」 首相が「裁定」

なので、今回は出ている情報から「残業上限年720時間」が法制化された後の労働時間についてどうなるか、ちょっと考えてみたいと思います。

 

「月平均60時間」は半分嘘

まず「残業上限年720時間」という話をすると「月平均60時間」というのがハンバーガーにはポテトみたいな感じで必ずセットでくっついてきますが、この「月平均60時間」というのは誤解の元なので忘れた方がいいです。

というのも、1年のうちの半分以上の月は月の残業上限は「45時間」となるため。

つまり、12ヶ月どの月も残業上限を60時間にするというのは不可能なわけです。

実は、これ自体は現行の36協定のルールと同じことで、今でも月の残業「限度時間」である45時間を超えることができるのは年6回までとなっています。

よって、平均を取ったら確かに60時間なのかもしれないけれど、散布図とったら60時間の月なんてない、つまり、残業時間の上限が60時間の月が1年のうちにまったくないことも全然起こりうるわけです。

いずれにせよ、実態に即してない表現なわけです。

 

一つの月が増えれば他は減る

次に考えたいのが最後まで労使の代表同士でもめた繁忙期の残業時間の上限です。

こちらはこれを書いている時点では、100時間「未満」になるか「以下」になるかわかってません。

ただ、年間の残業上限が720時間と決まっているので、この100時間というカードを切れば切るほど、他の月の残業時間は短くなります。

例えば、極端な話、年6回100時間残業とした場合、他の6回は月20時間しか残業させることはできません。

現行の特別条項付き36協定では、月の残業100時間という設定をした上で、他の月も限度時間の45時間まで働かせる、ということもできましたが、「残業上限年720時間」時代にそういうことは不可能なわけです。

 

年間上限720時間の他に、2~6ヶ月平均で月80時間の上限も

「残業上限年720時間」時代には、2~6ヶ月平均で月80時間までに残業時間を抑えないといけない、というルールも法令で盛り込まれる予定です。

つまり、先月は上限100時間残業させました、じゃあ今月もそれができるか、というと、そうはいかなくて、2ヶ月平均で80時間に抑えないといけない。

つまり、先月が100時間だった場合、今月は60時間以内に抑えないといけないわけです。

しかも、6ヶ月平均まで見るので、先月100時間、今月60時間だった場合、今度は3ヶ月平均でみないといけないので、来月は残業時間を80時間以下にしないといけないわけです。

 

年間の労働時間の配分を考える必要が

よって、先ほどの例のように1年で、月100時間残業を6回やろうと思うと、100時間と20時間とで毎月交互に上限が変えていかないと、違法となってしまいます。

さすがに100時間と20時間交互は極端とはいえ、残業がある程度ある会社では、年間の労働時間の配分をおおまかでも考えておかないと、年末や年度末など一番忙しい時期に残業させられない、ということも起こりえるので注意が必要です。

どこの会社も、ある程度は1年単位の変形労働時間制などで、年間計画を立てているとは思われますが、それでも、決めてるのは労働日と休日くらいかと思います。

しかし、これからは残業時間を含めた上での労働時間の年間計画を考える必要がありそうです。

 

現行の36協定が720時間以下になっていても罰則には注意

さて、最後に、現行の特別条項付き36協定でも、年の半分は月の残業時間45時間、もう半分の月は残業75時間というように作っているところは多いでしょう。

これは過労死ラインに配慮した上限設定をしているからですが、これなら「残業上限年720時間」の時代が来ても問題はありません。

ただ、違うのは「残業上限年720時間」時代になると、繁忙期以外で月の限度時間45時間を超えると、その時点で罰則が発生する点。

おまけに、繁忙期の45時間以上の残業についても、協定以上の残業時間となるとそこにも罰則が付くようになるので「形だけ」の36協定を作っている会社は注意が必要です。

今日のあとがき

今回は昨日からの予定を変更して、「残業上限年720時間」について、今ある情報からなるべく具体的に解説してみました。

当然、法定化される段階で変わる部分や新たに加わったりする部分もあると思いますが、ご参考にしていただけたらと思います。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 3冊の著書のほか「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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