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労務問題(時事) 残業

営業職はもともと残業代はゼロ(みたいなもん)だった

2016/04/20

一部営業職に裁量労働制を適用することを厚労省が検討しているということで、例によって例のごとく、これを朝日新聞が「残業代ゼロ」だと騒ぎ立てています。

裁量労働、一部営業職も 厚労省審、残業代ゼロ拡大検討

騒ぎ立ててる割には、記事を見るといろんなことが端折られてるのが腹立たしい限り。これが彼らの「角度をつける」報道ってやつですかね。

特に端折られているのが、厚労省が一部営業職に裁量労働を認める背景で、詳しいことはまだ不明ですが、実は想像することは難しくありません。

阪急トラベルサポート事件

事の発端はおそらく去年、最高裁の判決が出た阪急トラベルサポート事件でしょう。この事件は阪急トラベルサポートで働く添乗員たちが、残業代の支払いを求めて会社を訴えた事件で、最終的に労働者側の勝訴で終わっています。

会社がなぜ添乗員たちにたいして残業代を支払っていなかったかというと、一般に「事業場外みなし」と呼ばれる労働時間制度を添乗員たちに適用していたからです。

事業場外みなしとは、事業場外で業務を行うため会社が労働時間を算定しづらい労働者の労働時間をあらかじめ定め、定められた時間以上労働した場合も未満で労働が終わった場合も、その時間働いたとみなすものです。例えば、定められた時間が8時間の場合、1日の労働時間が9時間かかった場合も8時間分しか働いたことにならない一方、6時間で終わった場合も8時間働いたとみなされるわけです。(ちなみに、あらかじめ法定労働時間を超える労働時間を設定する場合、その分の残業代は発生します)

ただし、事業場外みなし労働を適用する場合、単に労働者が外回りしているだけでは足りません。例えば、外回りを一緒に行う労働者の中に指揮・監督者がいたり、携帯等で常に会社の指示を受けている労働者の場合、労働時間を算定しづらいとは言いづらく、適用できないのです。

阪急トラベルサポート事件ではこの点が争点となり、添乗員の業務は、あらかじめ行程が決まっていて労働時間が算定しづらいとは言いづらく、また今の時代、携帯電話で会社の指示をいつでも受けられることもあり、事業外みなし労働の対象となる労働者ではないので未払いの残業代を支払え、と添乗員たちが訴え、それが認められたわけです。

営業職を労働時間で評価するのは適当か

この事件の判決の煽りを受けたのが、いわゆる外回りの営業職です。外回りを行う営業職は、1日の殆どを事業場外で行う一方、労働時間よりも営業成績で査定したほうが適正な業種ということもあり、事業場外みなし労働がよく使われていましたが、今回の判決により、適用が難しくなりました。

というのも、前述したように今の時代、労働者はみな携帯電話を持っていて、会社の指示をいつでも受けられますし、特にルート営業の場合、外回りの行程も基本的に決まっています。つまり、添乗員と営業職が置かれている状況が非常に似通っていて、よって、このまま営業職に事業場外みなしを適用し続ければ、いつ阪急トラベルサポートの添乗員たちのように未払い残業を求めて訴えてくるかわかった状況ではなくなっているからです。

おそらく、こうした状況に経営者側の団体のどこかが反発したのでしょう。

営業職とは、基本的に契約を取り、売上を上げるのが仕事であり、労働時間で単純に成果を測ることはできません。当たり前ですが、10時間かけて契約を1件しか取れない営業マンAより、6時間で3件取ってくる労働者Bの方が評価されるからです。

にもかかわらず、事業場外のみなしではなく実際の労働時間で給与を支払うとなると、(労働時間以外の条件が同じなら)BよりもAの方が給与が高くなることになります。もちろん、会社の行う査定の結果はAよりBの方が高くなることはないにせよ、営業成績を上げられない労働者には、営業成績が上げられないなら残業しよう、という営業職として明らかに間違った動機付けを与えることになります。そのなかには残業とは言いつつ、喫茶店やパチンコ屋でサボる労働者もいるでしょう。何にせよ、事業場外みなしを営業職に適用できないのは会社にとっては大きな損失につながるわけです。

営業職はもともと残業代はゼロ(みたいなもん)だった

今回の朝日新聞の報道に角度、というより、悪意を感じるのは、良くも悪くも阪急トラベルサポート事件があるまで営業職は残業代がゼロみたいなものだったのに、まるで今回の裁量労働制の拡大ではじめて営業職の残業代がゼロになったかのような印象を読者に与えていることです。

こうした印象を与えることによって、あたかも営業職への裁量労働制の拡大は「残業代ゼロとなる職種の範囲が広がった」と思わせ「国は酷い、許せない」という義憤的な感情に訴えることができるわけですが、そもそも営業職に残業代がつかないことに文句があるのなら、これまでの事業場外みなしの運用について触れるのが筋ではないでしょうか。

事業場外みなし労働時間制度は、必ずしも労働者の裁量を認める労働時間制度ではなく、あくまで一定の労働時間、労働したとみなす制度ではありますが、事実上の営業職の裁量労働制度として、これまで運用されてきたわけですから。

それに、記事内では労働組合は労働組合で、営業職への裁量労働制の導入は長時間労働を助長するなどとわけのわからないことを言っています。しかし、これまで事業場外みなしが事実上の裁量労働制として機能していて、裁量労働制の業種が営業職に拡大されても、これまでと特段変わることはないはずなのにどうして労働時間が増えるのでしょうか。むしろ、残業代という営業成績以外のインセンティブを与えるほうがよっぽど労働時間が増えるのはないでしょうか。

個人的には残業代ゼロを声高に叫ぶ人たちが「残業代ゴロ」に見えて仕方ありません。

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名古屋の社労士事務所、川嶋事務所の代表で、このブログの筆者。 新しいこと、もの、特にIT関連が大好きで、社労士としては会社・労働者のITトラブル対策・就業規則作成が得意分野。 2016年4月から9月まで中日新聞で「働く人を守る労働保険」を連載、開業社労士専門誌「SR」に寄稿するなど、メディアでの執筆活動も。