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労務管理と行動経済学 有給

有給の取得率とフレーミング効果 (労務管理と行動経済学)

2016/04/20

あけましておめでとうございます。昨年末の膝の怪我でいきなり出遅れ気味のわたしですが、本年もよろしくお願いします。今回は新年とは全然関係なく有給について。

ちょっと前に大内伸哉先生の記事を元に少し書きましたが、今回はそれに少し行動経済学の観点も加えてみたいと思います。

有給の取得率というのはブラック企業に注目が集まっていることもあり、今や社会的にも注目される問題となっています。

そこで厚労省は企業に対して社員の有給休暇の消化を義務付ける方向で、有給制度の改革を検討していますが、普段は誰から社労士資格もらってんのかわかってんのかってくらいに厚労省をボロクソに言うわたしですが、この件については悪くない方向だと思っています。

フレーミング効果

(1) この手術による生存率は90%である
(2) この手術による死亡率は10%である

さて、上記の2つの文章が同じ事を言ってることはわかると思います。

しかし、興味深いことに、(1)のみを言われた患者と(2)のみを言われた患者とでは、手術を受けることを選んだ人の割合は(1)が84%である一方、(2)の場合では50%と、両者に大きな差が見られたそうです(ダニエル・カーネマン ファスト&スローより)。

これは、患者が(1)では生存の方に意識が向かい、(2)では死亡の方に向かった結果で、客観的な90%や10%といった数値は、生や死といった人間の感情に訴える言葉の前では無力とは言わないまでもはるかに微力であったわけです。

このように問題の提示の仕方や考えが人の決断や選択に不合理な影響を与える現象はフレーミング効果と呼ばれています。

なぜ、有給取得率の話でフレーミング効果の話をしているかというと、実は今回の有給の改正はフレームの変更にほかならないとわたしは考えているからです。

有給取得のためのフレームを変えてみる

現在の有給取得は基本的に、

A 付与された日数分について、あなたは好きなときに有給を取得していい。ただし、時季によっては使用者は別の日に変更をお願いすることがある

という制度です。

つまり、労働者が有給を1日1日取得する日を、有給付与日数の上限値まですべて選んで取得できるという制度としてフレームされているわけです。このフレームが日本で上手く行ってないことは、今更くどくど説明するまでもなく明らかでしょう。

しかし、以下のように言い換えたらどうでしょうか。

B 使用者が付与分の有給時季を指定する。ただし、あなたが望めばその日に有給を取得しないこともできるし、別の好きな日に変更してもいい

AもBも、付与された日数しか有給を取得できないことは同じですし、会社の都合によって有給の取得日が希望日と変更されることもあるのも同じだし、それに有給を取得しない自由も保障されているところも同じです。つまり、言っていることはどちらも同じなわけです。違うのはフレームだけです。

Aは基本的に労働者が自発的に取得するというフレームであり、労働者にその自発性がなければそもそも有給が消化されることがありません。

一方、Bでは会社があらかじめ有給日を指定し、それに対し労働者が変更権や拒否権を発動するというフレームとなっています。Bの場合も労働者に自発性がないと変更権や拒否権が発動されることはないわけですが、そうした権利が発動しない場合でも有給が消化されるのがAとの大きな違いです。

ヨーロッパなどの海外の多くは実はBのようなフレームのもと有給制度を運用していることは大内伸哉先生の指摘通りであり、そうした国の有給取得率が非常に高いことも周知のとおりです。

厚労省の改正案が日本でいつ頃導入されるかはまだ不透明ですが、現行の制度でも有給の計画的付与という制度を用いれば、Bのような形で有給を運用することは十分可能なので、有給取得率をもっと上げたいとお考えの経営者の方々は一考の余地はあるのではと思います。

 

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名古屋の社労士事務所、川嶋事務所の代表で、このブログの筆者。 新しいこと、もの、特にIT関連が大好きで、社労士としては会社・労働者のITトラブル対策・就業規則作成が得意分野。 2016年4月から9月まで中日新聞で「働く人を守る労働保険」を連載、開業社労士専門誌「SR」に寄稿するなど、メディアでの執筆活動も。