私事で恐縮なのですが、先日、名古屋で大雪が降った日に自転車で転倒し、左膝にヒビが入るという大怪我を負ってしまいました。ああ、なぜ、どうして雪の日に自転車なんて、と後悔しきりですが今回はそんな後悔の話。参考図書はもちろんダニエル・カーネマンのファスト&スロー。
「あの時こうしておけば良かった」「あんな事するんじゃなかった」といった感じに後悔していることが、人なら誰しもあると思います。その事柄は人それぞれですし、他人が聞いたらなんでそんなことでそこまで、と思うことも少ない。でも、実はこうした後悔を強く感じやすい状況とそうでない状況というのがあり、それが人の普段の行動までも縛っているのです。
では例題です。下の場合、より後悔するであろう場面はどちらでしょうか。
(1)
A パチンコが趣味の人が休日に2万円負けた
B 普段はパチンコをやらない人が人に誘われるがままパチンコをうち2万円負けた
さあ、どちらでしょうか。結果はどちらも2万円の負けで同じですが、おそらくBのほうが後悔の度合いは大きいのではないでしょうか。Aのような人の場合、パチンコで勝ったり負けたりなんていつものこと、と思えますが、Bだと2万円負けに加えて「なぜ、いつもは行かないパチンコなんて打ってしまったんだろう」という後悔がプラスされるわけですからね。
では、次の場合はどうでしょう。あなたの趣味はパチンコですが、最近はげんを担ぎ打つホール、台、台番号をここ数ヶ月変えていません。さて、より後悔するであろう場面はどちらでしょう。
(2)
C いつも座るパチンコ台に座って3時間打ったが2万円負けた
D いつも座るパチンコ台と別の台に座って3時間打ったが2万円負けた(いつも座る台はその間誰も打たなかった)。
結果はどちらも2万円の負けで同じですが、やはりCよりDのほうがより後悔を強く感じそうです。これで、いつもの台に誰かが座って大負けでもしていてくれれば少しは心のやりようもありますが、勝ってたら目も当てられない。
後悔をより感じるとき
以上の例題でわかるのは、人というのは普段の自分の行動とは別の行動を取った時ほどより後悔を感じやすいということです。逆に言うと自分の基本となる行動(デフォルト)をしている時に、自分の予想や期待に反することが起こった場合、デフォルト外の行動中に同様のことが起こった場合と比較してあまり後悔しないで済むわけです。
それが本能的にわかっているので、人間は普段デフォルトに反する行動を基本的にしたがりません。ファミレスに行った時に同じものしか頼まない人がいる一方で、売り場の歯磨き粉をすべて試してみないと気がすまないという人がいるのは、どちらにとってもそれがデフォルトであり、それに反する行為をすると後悔するのでは、と思っているからです。
さて、こうした点について、労務管理と行動経済学で考えないといけないのは、自分にとってのデフォルトが何なのか、そして、会社にとってのデフォルトはどこにあるか、という点です。
「やる後悔」ができるようになっているか
よく、「やらない後悔よりやる後悔」なんて言います。やらないままなら確実な後悔が待っているが、とりあえずやってみれば、後悔せずに済むかもしれないし、ダメだった場合も諦めがつくというわけです。しかし、「やらないこと」がデフォルトとして染み付いている人間や会社にとってはそれほど簡単な話ではありません。
まず、すでに述べたように、人はデフォルト外の行動をしたがりません。デフォルト外の行動をすると後悔するのでは、と考えてしまうからです。よって、「やらないこと」がデフォルトの組織では、まず「やる」までが非常に時間がかかるわけです。
しかし、いざ「やる」という段階まで来てもことは簡単ではありません。なぜならデフォルトに反する行動を取った時に、自分たちの期待や予想に反する結果が出た場合の後悔はやらなかった時の比ではないからです。結果、「やらないこと」はよりデフォルトとしてその足場を固め、組織は事なかれ主義へと向かってしまうわけです。
よく経営者インタビューなんかで、成功の秘訣は挑戦し続けること、なんておっしゃられる経営者の方は多いですし、実際に成功している企業を見ても新しいことをやっているな、と思う企業が多いのも確かですが、そうした企業足り得るには会社そのものが「やる」ことがデフォルトになっていないといけないのでしょう。結局「やる後悔」ができるのは、常に何かをやっている人・組織だけなのです。