さて、突然ですが、あなたはどちらを選びますか?
(1)
A 1万円を確実にもらう
B 60%の確率で2万円もらう
あるいは、以下の様な場合はどちらでしょう
(2)
A’ 1万円を確実に失う
B’ 60%の確率で2万円を失う
AとBの期待値を比べると、Bの方が期待値(Aは1万円、Bは1万2千円)が高く、A’とB’の期待値では、A’の方が失う額の期待値は小さい。ただ、多くの人は(1)ではAを、(2)ではB’を選んだのではないでしょうか。
いやいやわたしはそうではないよ、という人も、自分が月のお小遣いが5千円でバイトもしていないの高校生だったとしたらどうでしょう。やはり、(1)でAを、(2)でB’を選ぶのではないでしょうか。
人間は確実に利益を得たいと考える一方、損失はできるだけ避けたいと思う生き物であり、1万円をもらう心理的な喜びと1万円を失う心理的な悲しみは、額は同じでも失うほうが心理的には大きい。つまり、金額と心理的価値は必ずしも比例しないとされています。
こうした人間の心理は、ダニエル・カーネマンのプロスペクト理論で説明ができ、以下の様な図で表されています。
見ていただいてわかるように、縦軸を挟んだS字は点対称とはなっておらず、人間の心理において、利益よりも損失のほうが影響が大きいことがわかります。これを損失回避性と言います。
損失回避性の他に、プロスペクト理論にはもうひとつ重要な事があります。それが参照点です。最初の例題で、わたしは「もしもあなたが高校生だったら」という条件をつけましたがこれが参照点です。
要するに、確かに人間は損失をなるべく回避したいと思っていますが、それも時と場合、その時の懐具合によるというわけです。例えば、宝くじで100万円当たったあとに(1)や(2)のような場面にでくわした場合、(1)や(2)でのみなさんの答えは当然変わってくるでしょう。
このように人間がなにかを選択するときには、参照点と損失回避性が大きく関わってくる、というのがプロスペクト理論なのです。
次回は、「プロスペクト理論と労務管理」と題して、これらを労務管理の現場に応用して解説していこうかと思います