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労務管理と行動経済学

怒るか褒めるか ダニエル・カーネマン「ファスト&スロー」を(上巻だけ)読んで

2016/04/20

今さらかよ、と言われそうですが最近、行動経済学者でノーベル賞受賞者のダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー」を読んでます。

その中で、人事・労務について、役立ちそうな話が合ったので、備忘録代わりに書いておこうかな、というのが今回の記事です。

怒るか褒めるか

さて、いきなりですが、あなたがある会社の何かのプロジェクトリーダーだったとします。しかし、あるとき、あなたの部下がそのプロジェクトをポシャりかねない大きなミスを犯してしまいます。彼が次も同じミスを犯さないためには、あなたは彼を怒ったほうがいいでしょうか、それとも、なんとか良いところを見つけて少しでも褒めたほうがいいでしょうか。

(考え中)

(考え中)

(考え中)

さて、どちらか答えは出ましたか?

答えを出していただいた方には申し訳ないのですが、実は、どちらを選ぼうと、おそらく、その部下は次はうまくやります。なぜなら、彼の仕事結果は平均に回帰するからです。あっ、そうそう答えを考えようともしなかったそこのあなたには、こっちも申し訳ないなんて気持ちはこれっぽっちもないのでそこのところよろしく。

・・・、さて、平均に回帰する、というのは統計学の用語ですが、それが何かを説明しだすとわたしのつたない文章ではどんどんこの記事が長くなってしまうのでwikipedia、通称ウィッキーさんでしたっけ? でも見てください。

大失敗の後の次の仕事結果が平均に回帰するということは、大失敗なんて連続で起こることがまずない事を考えれば、次の彼の仕事の結果は改善される可能性が非常に高いということになります。なので、褒めようが怒ろうが結果は同じというわけです。

平均回帰を成功体験と勘違いする人の心

これは「ファスト&スロー」の中で繰り返し述べられていることですが、厄介なことに人間の心というのは平均回帰のような統計学的な現象よりも、物語や因果関係を好みます。陰謀論のような非科学的な物語がこれだけ世の中に流通しているのも、この人の心というシステムの影響が非常に大きいわけです。

なので、さっきの例のように単に「平均に回帰」しただけと思われる事例についても、わたしたちの心はついつい因果関係で考えてしまう。つまり、「失敗についてきちんと怒ったからあいつは伸びた」「失敗してもそのなかからなんとか良いところを見つけて褒めたから彼女は成長した」みたいな感じで考えてしまうわけです。実は、これが労務管理上結構厄介な点だと思いました。

というのも、このように平均回帰が当てはまる可能性が高い事例だとしても、本人はその結果を導いた真の原因に気づかないまま、「怒ったら伸びた」「褒めたら伸びた」という曲がりなりにも成功体験を得てしまうからです。成功体験を得ると、多くの場合、人はその成功体験を忘れることができないので、それを繰り返すようになります。

「褒めたら伸びた」という成功体験の場合、例えそれを繰り返したとしても、周りに大きな迷惑をかけることはないと思いますが、「怒ったら伸びた」という成功体験の方は行き過ぎると会社にとっても厄介なことになるのは想像に難くありません。

怒れば伸びると思っている人は、それで上手くいかないとさらに怒るわけですが、平均回帰を考えると、部下の方もいつまでも失敗し続けることはない。となると怒れば伸びると考える上司はさらにそこで成功体験を得てしまう。これが、論理的に怒れるような人の場合はまだいいかもしれませんが、感情的にただただ怒るような場合、行き過ぎればパワハラ上司化やクラッシャー上司化することだって考えられるわけです。

「企業は人なり」とよく言いますが、人を人たらしめているのが他ならぬ心であることを考えると、行動経済学のような学問は労務管理上、非常に参考になるし、参考にすべき理論だと「ファスト&スロー」を読んで(ってまだ上巻を読み終わっただけですが)その思いを強くしました。なので、まだ読んでないという方にもぜひオススメしたい本です。

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名古屋の社労士事務所、川嶋事務所の代表で、このブログの筆者。 新しいこと、もの、特にIT関連が大好きで、社労士としては会社・労働者のITトラブル対策・就業規則作成が得意分野。 2016年4月から9月まで中日新聞で「働く人を守る労働保険」を連載、開業社労士専門誌「SR」に寄稿するなど、メディアでの執筆活動も。