育児休業・介護休業

女性の多様な活躍を支援するなら、2歳に延長だけでなく育児休業を半年に短縮するオプションも必要では?

12月7日に行われた「第178回労働政策審議会雇用均等分科会」で、育児休業の延長を現在の1歳6ヶ月から最大2歳にする方向性が示されました。

ただし、この2歳までの延長については、現在の6カ月の延長と同じく、保育園が見つからないなどの緊急的な場合に限られるとされています。

これについて、わたしのFacebookのタイムラインでは困惑気味の女性の方が少なからず見られました。

産前の休業の6週間にプラスして2年間も職場を離れるわけですからね。いくら子育てのためのとはいえど、その後のキャリアのことを考えると心配になる気持ちもわかります。

一方、若い独身女性は結婚すると最大で2年も職場から離れる可能性がある、と思うと、会社からしても雇用するのにためらいが出るかもしれません。

 

男女間の賃金格差の縮小を目指す厚労省

厚労省がこうした施策を行おうとする背景には、まず、日本では欧米に比べると男女間の賃金格差がまだまだ大きいことがあります。

その対策として、雇用の継続を促し勤続年数を伸ばすことが出産による女性の所得の減少を抑えることになると考えているからです。

日本では年功序列の風潮が強く、一度会社を辞めて中途で他の会社に入っても、出産前の賃金水準を維持することは難しいので、預けられる保育園が見つからない、との理由で会社を辞めざるを得ない、といったことを避ける施策として一定の効果はあるのかもしれません。

厚労省はこうした雇用の継続と合わせて、企業に対して、女性の管理職への登用を促すことで男女間の賃金格差を縮めようという考えのようです(役所にそんな内政干渉みたいなことができるかはさておき)。

 

育休が短いほど将来所得は増える

ただ、一方で男女間の賃金格差に関していうと、こうした以下のような研究結果も出ています。

コルゲート大学の加藤教授、東京大学の川口教授、東京大学の大湾教授は、日本の製造業企業1社の人事データを用いて、男女賃金格差の現状と原因について分析を行った(Kato, Kwaguchi and Owan(2013))。彼らの研究結果で興味深いのは、(1)女性の場合、年間労働時間と昇進率の間には統計的にも経済的にも有意な正の関係が観測できたが、男性の場合には確認出来なかったこと、(2)出産は将来所得を最大2、3割減少させるが、その減少幅は大卒女性においてとりわけ高かったこと、(3)上記の出産ペナルティは、育児休業から短期間で復帰し、かつ労働時間を減らさないことで回避できることの3点である。

大竹文雄の経済脳を鍛える 2016年8月19日 女性の活躍と柔軟な働き方

※ 強調は川嶋によるもの

つまり、男性と違い女性の昇進には一定の年間労動時間が必要であり、出産は女性の将来所得を減らす、というデータが出ていて、それを避けるには、年間労働時間を減らさないためにも育児休業から短期で復帰した方がよい、というわけです。

育休から早く復帰し年間労働時間を減らさなければ昇進率が下がらないので、昇進による賃金の上昇も見込めるわけですからね。

 

育休を短くするオプションも必要では

わたしは別に、給与を減らされたくなかったら、あるいは将来もっと稼ぎたいなら、育休をさっさと切り上げろ、と言いたいわけではありません。上記の研究をされたコルゲート大学の加藤教授、東京大学の川口教授、東京大学の大湾教授にしてもそうでしょう。

ただ、国として「女性の活躍」というのであれば、育児休業を延長する方向性とは別に、こうした研究に基づいた育児休業を短くする「オプション」も必要なのではと思うわけです。

例えば、再就職手当のように、早く職場復帰したいので保育施設を早めに見つけて育児休業を半年で切り上げた女性労働者に対して、残り半年休業していればもらえた分の育児休業給付金の何割かを支払う、みたいなオプションは全然あっていいと思う。

 

現状でもできなくない、だが、しかし

もちろん、現状の制度でも、1年よりも短い育児休業を取ることはできます。

できますが、現状はそこに何のインセンティブもない。上記の研究結果を見れば、まったくないとは言い切れないが、少なくとも、取る側からしたらないように見えます。

また、育児休業給付金に関して言うと、要件が緩和されて月80時間以内の労働であれば、支給停止の対象にならないとされましたが、こうしたことを制度的にやろうとすると、育児介護休業法違反になるというチグハグぶり。

これに関して言うと、わたし、読売新聞にこういう記事があったので、

育休中も柔軟に仕事

顧問先で↑こういうことやってもいいか、と愛知労働局に確認したら「あんた何いってんの?」的な扱いされましたよ、とほほ。(育児休業と育児休業給付金は同じ厚労省でも管轄が違うのだ)

 

以上です。

今回書いた例はあくまでわたしの一つの案で、別に他の形でもいいと思っています。

ただ、様々な働き方があり、様々な形で働く女性がいる以上、育休という制度は様々な受けが取れるよう、制度として幅を持たせておくことが重要なのはもちろんのこと、それを十分に活かすインセンティブの設定も重要だと思い上記のようなことを提案してみました。

いくら制度上は可能と言っても「損する」と思ったら、その選択肢を選ぶ人も減るでしょうしね。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 3冊の著書のほか「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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