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未来型国家エストニアの挑戦 電子政府がひらく世界 (NextPublishing)
バルト三国の1つであるエストニアは九州よりやや広い国土に福岡市とほぼ同数の130万人が暮らす国で、Skype発祥の国としても知られています。
エストニアは、ソ連からの独立回復後、ICT(ITにCommunicationのCをプラスした言葉)とバイオテクノロジーに資本を集中していくことを決定。
その結果、エストニアはすでに、今現在日本が目指している「電子政府」を行政、医療、教育、国政のあらゆる場面で高レベルで実現しており、世界的にみてもエストニアはICTのは最先端を行く国の1つとなっています。
例えば、国政では選挙はネット投票が可能だし、医療については医療情報の共有が進んでいるため、医師が変わっても再検査の手間は省略されてるし、教育についても、小学生からプログラミングの授業が行われているほか、eKoolという教師と家族とのコミュニケーションツールも普及していて、親はeKoolを通じて子供の成績や学習状況を確認することができます。つまり、子どもは親に通知表を隠すことはできないわけです(笑)。
「eIDカード」と「マイナンバーカード」
こうした高度なICTサービスの基盤となるものの1つに「eIDカード」があります。
免許証のように顔写真や名前、日本のマイナンバーに当たる「国民ID番号」などが刻印されたカードの中には電子証明書が入っていて、電子的に自分の身分を証明することができ、ネットバンクのログインやネット投票、公共端末のアクセスなど様々な場面で利用できます。
電子証明書を利用すれば、ネットサービスでの複アカ作成が困難となるため、転売屋対策もできるし、SUICAなどのように切符やチケットの代わりにもなります。
実は日本のマイナンバーカードの機能はこの「eIDカード」とほとんど同じで(というか、参考にしたのでしょう)、電子証明書の民間利用もすでに解禁されているのですが、今のところ、マイナンバーカードの電子証明書を利用する機会はほとんどありません。
日本政府は電子証明書の利便性を高めるため、ゆくゆくは携帯電話に電子証明書を埋め込めるようにしようと考えているようですが、それすらもエストニアではすでに達成済み。
あらゆる意味で日本の先を行っています。
現状はマイナンバーと電子証明書がごちゃごちゃ
思えば、昨年の今頃はマイナンバーが届く届かないで大騒ぎだった気がしますが、今やその熱狂もウソのように誰もマイナンバーを話題になっていません。最近のニュースではこれまでマイナンバーに関する事件は66件起きているそうですが、どれもほとんどニュースにすらなっていない。
実際、マイナンバーだけでなりすましや個人情報の抜き取りは困難で、今後時間が経てば、マイナンバーに大騒ぎしていた大多数の人たちもそれに気づくでしょう。こうした制度に生まれたときから触れている、エストニア人で著者の一人のラウル・アリキヴィ氏も「国民ID番号は名前みたいなもの」で「全員に知られたくはないが、何人かに知られても害はない」と述べています。
問題は、そうした状況になる前に、マイナンバーと電子証明書の制度を一緒に始めてしまったことで、マイナンバーカードを利用する(=電子証明書を利用する)ということと、マイナンバーを利用することの区別が、国民も企業側もきちんとついていないことです。
そのため、マイナンバーカードを利用(=電子証明書を利用)したサービスなのに、マイナンバーを利用すると勘違いして批判や反対する人間が出てくる。そうした人間いると、民間企業はなかなかマイナンバーを利用したサービスを使いづらい。
ただ、エストニアでもeIDカードが出た当初は使いみちがなく必要性を感じない人が多かったそうですが、その後、使えるサービスが格段に増え無くてはならない存在になったそうです。
マイナンバーと電子証明書の違いを国民全員が理解するのは100年経っても無理でしょうが、便利かどうかは誰でもわかることなので、政府も、電子証明書の普及を本気で考えるなら、行政以外のサービスも充実できるよう、民間に営業をかけるべきなのかもしれません。
本書は、エストニアという国のことはもちろん、マイナンバーやマイナンバーカードの成功の先にある未来を見せてくれる。マイナンバーやマイナンバーカードに疑問を持つ人や、その存在意義がわからないという人におすすめです。