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労務管理 問題社員

上司になった途端に問題社員化

2016/04/20


事例

会社Eの男性社員Lは、いつも挨拶に元気があり愛想もよく、社内の先輩社員や取引先の評判も上々だったため、社長のお気に入りでした。そのため、今回新しく作ることになった部門の責任者にLを任命しました。ITに重点置くこの部門はLをはじめ会社の中でも若い人間が中心、Lにとってはこれが初めての役職でしたが、社長自身がITに弱いこともあり、業務のかなりの部分をLの裁量に任せることになりました。

新部門設立から数ヶ月後、Lの部下の1人のMが突然音信不通となりました。数日後、自分の自宅ではなく実家に帰っていたことがわかり連絡はとれたのですが、突然の音信不通に対する会社の事情聴取の要請には断固として出社を拒否し、結局自主退職という形でE社を退職してしまいました。

それから1ヶ月と経たないうちに、E社の社員であるNが突然会社に来なくなってしまいました。NはMと同様に、Lが統括する新部門のもとで業務を行っていました。Nと連絡がとれた後の流れはMの時とほとんど同じで会社からの出社要請を拒否、そのまま退職してしまいました。

短い期間にこのように蒸発同然のような形で社員が連続して会社を辞めていくような事態は、会社創立以来初めてでした。Lに絶大な信頼を置いていたこともあって、Mのときには部門の責任者のLにあまり詳しく事情を聞かなかった社長でしたが、Nの件でようやく重い腰を上げL本人も含め、新部門で働く社員全員に対して面談およびアンケートによる実態調査を決行。その結果、驚くべきことがわかりました。

新部門の内部はLを中心とする「いじめる側」と、MやNのような「いじめられる側」に完全に分かれていたのです。無記名アンケートによって行われたその告発内容は、「自分は社長に気に入られているから逆らったらクビだ」という社長の知っているLからは考えられないような発言に始まり、LたちのグループがMやNの女性経験の少なさをなじる様や、仕事上のミスをそのせいにしたり、あるいは「いじめられる側」を使い走り同然に扱う様子が事細かに書かれていて、しかも最後には「報復が怖いので絶対にこのことはLには言わないでほしい」とまで書かれていました。

面談時には誰もが部門内に問題はないと社長には言っていたので、社長のショックは非常に大きいものがあり、社長はすぐに退職したMやNに連絡を取り事実関係を確認した結果、MとNはいじめの事実があったことを認めました。

解説

スポーツの世界では「名選手が名監督になるとは限らない」とよく言われます。もちろん、実際には人それぞれでサッカーのヨハン・クライフ(現役時代はサッカーオランダ代表、監督としてもFCバルセロナで4度のリーグ制覇)や、野球の落合博満(現役時代三度の三冠王を獲得し、監督としても中日ドラゴンズを日本一に導く)のように選手としても監督としても活躍した方はたくさんいます。ただ、その一方でマラドーナや古田敦也のように、監督としては成功しきれなかったかつてのスター選手も数多くいるのも確かです。

さて、今回の事例は「上司にとって素晴らしい部下が、上司として素晴らしいとは限らない」というお話です。単に上司として適正がないだけならまだしも、他の社員をいじめていたのは会社にとっても大損害ですね。事実、短期間で2人の社員が会社をやめてしまいましたし。

L自身はおそらく根っからの体育会系だったのでしょう。体育会系の学生というのは、礼儀正しく元気もあって社交性もあるし、先輩や上司の言うこともよく聞くので今も昔も就活で有利と言われています。しかし、Lは体育会系特有の上下関係の厳しさを悪用するような形、業務命令という名のパワハラなどで気に入らない部下をいじめていたのでしょう。

体育会系の上下関係というのは基本的には年功序列に基づいているため、上と下が入れ替わることはまずありません。そのため、上にいる側の人間が、下の人間がさらにその下の人間に普段どのような態度なのかを知ることはなかなかできません。自分より上がいるときは猫をかぶることだってありますしね。

とはいえ、社内イジメは決して放置できる問題ではありません。社内いじめはパワハラやセクハラを伴う事が多いからです。

もしもこれで、Lの部下たちがメンタルヘルスを発症したりあるいは自殺してしまったりした場合、当然労災認定されますし、その遺族等に不法行為による損害賠償の対象として民事訴訟を起こされれば、請求額は数百万円では収まらないでしょう。

対策

今回の件は、社長がLに対して裁量権を与え過ぎたことも問題を大きくした要因でした。

労働基準法では「裁量労働制」と呼ばれる社員の責任による裁量労働を認める制度が存在しますが、これはあくまで「労働者の労働時間の裁量」を認めているだけです。つまり「社員の裁量で行ったことだから責任は社員にある」という論理を法律は認めていないのです。

事例ではLの部門が裁量労働制を採用しているかどうかはあえて明記しませんでしたが、仮に今回の件でLの部門が裁量労働の対象であったとしても、会社の使用者責任は免れません。

そのため、社長の目がすべての社員になかなか届かない規模になった場合、つまり、会社が中間管理職が必要な規模になった際の人事には注意が必要となります。

注意というのは、先にも述べた「上司にとって素晴らしい部下が、上司として素晴らしいとは限らない」という点もそうなのですが、こればかりはやらせてみないとわからない部分もあります。それよりも大切なのは部下を持つ社員への教育でしょう。

会社の経営者の方に思い出して欲しいのは自分が起業してからはじめて自分以外の労働者を雇用した時のことです。その頃、労働基準法をはじめとする労働法のことをどれだけ知っていましたか? 有給や休憩、残業代のことをどれだけ知っていましたか。はじめて部下を持つ社員もまさにそう。そのため、こうした教育を怠ると、当該労働者が元々の人間性に問題がある場合でなくても、部下とのあいだで何かしらの問題を起こす可能性があります。

しかも、近年ではパワハラやセクハラはより大きな問題として取り上げられ、しかも、その責任を行為者である労働者だけでなく会社に対しても求める風潮が強くなっています。そのためこうした対策を怠ること、つまり、中間管理職教育を疎かにすると会社にとって思わぬ痛手を負いかねないのです。

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名古屋の社労士事務所、川嶋事務所の代表で、このブログの筆者。 新しいこと、もの、特にIT関連が大好きで、社労士としては会社・労働者のITトラブル対策・就業規則作成が得意分野。 2016年4月から9月まで中日新聞で「働く人を守る労働保険」を連載、開業社労士専門誌「SR」に寄稿するなど、メディアでの執筆活動も。