年金・健康保険制度

社会保険料の仕組みが内包する労使トラブルの火種

2013年7月3日

算定の季節です。

・・・って、算定ってなんですか? というのが、社労士でもなければ、会社の経営者や総務でもない一般の人たちの反応かもしれませんが。

実は、社会保険の保険料というのは源泉徴収される所得税や雇用保険の保険料と違い、毎月の給与の変動によって保険料が変わっているわけではありません。

では、どのように決まるかといえば、標準報酬月額の等級と社会保険料の保険料率によって決まります(また新しい言葉が出て来ましたが、混乱されないように)。

じゃあ、この標準報酬月額の等級がどのように決まるかといえば、毎年の4、5、6月の給与の平均を基準に決まります(この平均額のことを報酬月額と言います)。そして、この報酬月額を法律で定められている標準報酬月額の等級表(リンク先pdf)に当てはめることにより標準報酬月額が決まるのです。例えば、上記の期間の報酬月額が21万円以上23万円未満の人は、標準報酬月額が22万円の等級になる、といった感じです。

この標準報酬月額の等級は原則として毎年1回改定が行われるのですが、そのために年金機構に提出するのが算定基礎届と言う用紙。社会保険に加入している会社は7月10日までにこの算定基礎届というものを日本年金機構に提出しなければいけないのです。

さて、原則として毎年1回しか標準報酬月額が変わらないということは、4、5、6月の給与が高ければ、その後の1年間の社会保険料は高くなるし、低ければ安くなるわけですが、標準報酬月額の等級は厚生年金の年金額に関わるので安ければいいというものでもありません。

とはいえ、労使間でトラブルになりやすいのはもっと別のことです。

というのも、先にも述べたとおり社会保険の保険料は毎月の給与の変動によって左右されることはありません。では、病気や怪我などで出勤できず、ひと月の給与が全くない場合はどうなるのか、といえば、実はこの場合も社会保険料を支払い続けねばならないのです。

殆どの場合、労働者が負担する分の社会保険料は給与から天引きされていますが、天引きしようにも元となる給与がないわけですから会社としては困ってしまうわけです。そのため多くの会社の就業規則では、病気や怪我などが治ったあとに請求するといった定めがなされているはずですが、それで払ってくれるかどうかはまた別問題。給与からの天引きも、過去の社会保険料を直近の給与から遡って行うことは法律上許されていません。

ちなみに、社会保険料の滞納を理由に会社が労働者を解雇などの懲戒処分に処することは過去の判例を見る限り難しいと思ったほうがいいです。というのも、社会保険料の滞納というのはあくまで会社と労働者の債権・債務の問題であり、労働契約とは別の問題、というのが司法の立場だからです。

社会保険の問題ではよく、会社が労働者を社会保険に入れないことが問題になりますが、きちんと入れているからこそ起こるトラブルもあるということも、会社の経営者の方は頭に入れておいたほうが良いでしょう。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 3冊の著書のほか「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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