社会保険労務士

深い法知識のある社労士は少ない

2013年6月4日

就業規則を会社の憲法と例えることが不適切な理由は他にもあります。

日本国憲法は国の最高法規としています。最高法規とは、つまり、憲法よりも拘束力の強い法は存在しないということです。実際、憲法で認めらている権利を侵害するような法律は、最高裁判所の違憲審査の対象になります。

では、労働者と使用者のあいだには就業規則よりも拘束力の強い規則などは存在しないのでしょうか。

これをYESと答える社会保険労務士は、社会保険労務士試験のために受験勉強をしている受験生以下。つまり、プロ失格でしょう。

(労働基準法>)労働協約>就業規則>労働契約

社労士試験の参考書を開けば、必ずと言っていいほど上のような図があります。

労働協約とは労働組合と使用者が結ぶ合意書のことです。この労働協約は、労働組合の組合員である労働者にしか適用されないが、就業規則よりも優先されます。例えば就業規則に「会社は社員に転勤を命ずることがある」とあっても、労働協約に「会社は社員に転勤を命ずる場合、労組の意見を聞かねばならない」とあったら、会社は労働協約に従い労組の意見を聞かねばなりません。

また、労働者と使用者が個別に結ぶ労働契約は、上図のように基本的に就業規則よりも下位に位置するが、労働契約に特別の定めがある場合、就業規則よりも優先されることになっています。また、当然のことながら、労働協約も就業規則も労働契約も労働基準法で定める基準を下回るような定めは無効となります。

つまり、就業規則は会社にとっての最高法規とはお世辞にもいえないものなのです。

にもかかわらず、なぜ「就業規則は会社の憲法」と言って憚らない社労士が後を絶たないのでしょうか。

最も大きな理由は社会保険労務士になるために憲法を勉強する必要がないからでしょう。

訴訟代理権を持つ弁護士および司法書士(認定のみ)は、司法試験および司法書士試験で憲法が受験項目に含まれています。訴訟代理権を持たない行政書士試験ですら憲法は受験項目に含まれますが、社労士試験にはありません。これはもともとの社労士制度が税理士の社会保険版としてはじまっていることに由来します(税理士試験や公認会計士試験でも憲法は受験項目ではありません)。余談ですが、現在社会保険労務士業界は、訴訟代理権取得を目指し政治活動を行っていますが、政治活動よりも前にすることがあるように思えてなりません。

加えて、私自身もそうですが、社会保険労務士資格を取得する人間は必ずしも大学等で法学を学んでいるわけではありません。合格者の平均年齢を見ても、ほとんどの場合、一度社会に出てから何か資格を取ろうと思って取得する資格の筆頭候補が社会保険労務士資格なのです。なので、労働法や社会保険関連の法律自体には詳しくても、法そのものに対する基本的な知識を必ずしも持っているとはかぎらず、その中途半端な知識の結果が「就業規則は会社の憲法」という表現として表れているのです。(続きます)

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 3冊の著書のほか「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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