労働問題を語る上で、正社員と呼ばれると正規雇用の労働者と、パートや契約社員などの非正規雇用労働者を比べると、正社員の方が圧倒的にその地位を保護・保証されているのは常識です。
しかし、ちょっと労働法をかじっただけのような人は、労働法に「正社員」を守るような条文はないし非正規雇用にしたって「パートタイム労働法」や「労働契約法」などで守られていると訳知り顔で語ったりします。確かにその通りではあります。法律には「正社員」を定義するような条文もないので、当然、正社員を特別守る条文もありません。
では、正社員は一体何に守られているのでしょうか。
それは司法です。つまり、裁判所です。
特に解雇にまつわる裁判では企業側が負けることがほとんどです。会社が一番解雇したくなるような能力不足での解雇の場合、能力が足りないならきちんと社内で教育すればいい、ということでなかなか解雇は認められません。また、仕事中に大声を出すなど回りに迷惑をかけて、職場の和を乱すような社員に対しても、同様の理由でなかなか認めてもらえません。また、減給等の労働条件の引き下げも同様に困難です。
しかし、これが契約社員の雇い止めになると話は別となります。
契約社員の場合、契約期間が終わったら契約を更新しない限り基本的にはそれでおしまいです。それに雇い止めはあくまで「契約期間の満了」を理由に労働者を退職させることなので、正社員で言う「解雇」に当たりません。よって、今年の4月に改正された労働契約法によって法定化された「雇い止め法理」によってある程度制限はされるものの、能力不足や迷惑行為といった理由でも、契約期間の満了を待つ必要はありますが、契約を打ち切ること、あるいは契約更新と同時に労働条件を引き下げることはそれほど難しくありません。(日立メディコ事件、河合塾事件)
それにしても、どうして司法は正社員を守ろうとするのでしょうか。
そもそも裁判官はどのようなプロセスで判決を下すのでしょうか。
証拠と証言をもとに法律に則って、というのは当然ですが、多くの場合は過去にあった類似の事件の判決、つまり判例をもとに判決を下すのが普通です。ほとんど同様の事件なのに、一方では原告が勝ち、一方では被告が勝つ、では司法のバランスが取れませんからね。
そして、過去に日本で争われた数多の解雇の正当性を争う裁判の判例では、ことごとく労働者側が勝っています。なぜなら、昔の日本の終身雇用や年功序列といったシステムが機能しており、司法もそれを元に解雇の正当性を判断していたからです。そして、そうした日本の経済状況が良かった時代の判例の積み重ねが、時代が変わり終身雇用が崩壊した今現在も司法に影響を与え続け、裁判は正社員の地位を守る、あるいは守らざるを得ない状況を生んでいるわけです。
こうした状況を打ち破るのが立法府たる国会の役目のはずなのですが・・・。