みなし労働時間制・裁量労働制

ホワイトカラーエグゼンプションに対するジレンマ

2013年5月20日

ホワイトカラーエグゼンプションは導入した方が絶対にいいが、今の日本では絶対にダメ、というのが私のスタンスです。

ホワイトカラーエグゼンプションというのは、事務職等のいわゆるホワイトカラーと呼ばれる労働者の残業手当支払い義務を免除する、といったものです。厳密にはちょっと違うのですが詳しく説明すると長くなるので知りたい人はWikipediaでも見てください。


一見すると残業しても残業代がもらえないなんて酷いと思われるかもしれません。実際、過去に同様の提案があったとき「残業代ゼロ法案」として大きな非難を浴び、国会に提出されることはありませんでした。

ですが、そもそもの問題として、ホワイトカラーと呼ばれる職種の多くというのは労働時間をもとに賃金を支払うような職種なのか、という疑問があります。

例えば事務職の場合、同じ時間机の前に座っていたとしても、同じ量の仕事をしているとは限りません。デザイナーやSEにしたってそうでしょう。また、どれだけ仕事をしても支払われる賃金は同じなのですから、最低限の仕事だけしてあとは適当にサボってもいいわけです。が、これは会社からしたらまだマシ。

会社にとってもっと困るのは残業代欲しさのために会社に居残る場合です。会社の与える仕事量が多すぎて所定の労働時間内に仕事が終わらない場合、会社が残業代を支払うのは仕方のないことでしょう。しかし、こうしたいわゆる生活残業のために残業代を支払うのは会社からしたらたまったものではないのです。

その点、ホワイトカラーエグゼンプションが法定化されれば、労働時間によって賃金を支払うのが適当でないような職種では、わざわざ好き好んで残業する人間はいなくなります。また、業務の効率化という面でも、仕事を早く終わらせるためのインセンティブとしてホワイトカラーエグゼンプションは有効でしょう。

ですが、これを今の日本でやるのはただの残業代の棒引きでしかありません。

労働者からしたら、ホワイトカラーエグゼンプションが正式に施行された場合、できる限り自分の働く会社を選択したいと思うはずです。自分の仕事の処理能力と仕事量の均衡が取れる職場を探す必要がありますからね。

しかし、ご存知のように現在の日本では正社員の解雇が非常に厳しく制限されています。そのために会社は気軽に新しく労働者を雇うことができず、どうしても人が足りない場合は非正規雇用に頼ることになります。

そうした状況では一度入った会社を辞めることは難しい、つまり会社の選択などほとんどできないに等しいわけで、運悪く入った会社がホワイトカラーエグゼンプションを悪用する会社だった場合、その労働者の取れる選択肢は非常に厳しく限られたものとなります。

なので、ホワイトカラーエグゼンプションという制度自体は悪いものではないと思いますが、今の日本でそれをやるのは、今話題のブラック企業を白く塗りつぶすどころか、より濃く真っ黒にしてしまうだけかと思われます。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 3冊の著書のほか「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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