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労働者派遣

厚労省が派遣労働者を殺す

2019/03/29

労働契約法の5年ルールや高年法の65歳までの雇用義務化に比べるとあまり話題になっていませんが、去年の10月から、改正された労働者派遣法の一部が施行されています。

どうして話題になっていないかといえば、目玉だった「登録派遣の禁止」や「製造業への派遣禁止」といった項目が当時のねじれ国会の影響もあり見送られたことと、他に改正された部分があまりに意味不明な点が多かったからでしょう。

例えば「日雇い派遣の禁止」。これは雇用期間が30日以内の日雇い派遣を原則禁止するものですが、一方で「日雇い労働」は禁止されていません。要するに派遣会社を経由する日雇い派遣はだめだけど、派遣会社を経由しない日雇い労働はいいということです。

派遣料金やマージン率の明示義務も意味不明です。派遣料金というのは派遣先が派遣元に支払う料金のことで、マージン率というのは派遣料金と派遣料金から労働者に支払われる給与を引いた額の比率のことです。つまり、これをレストランで例えるなら、メニューに載っている料理の値段の横にその料理の原価も載せておきなさい、みたいなことです。

しかし、そうした意味不明だらけの改正の中で1つだけ派遣元および派遣先に大きな影響を与える改正がありました。

その説明をする前に、みなさんは2009年問題というのをご存知ですか?

現在、労働者派遣の期間は同一の事業者に対して、一部の例外業務を除き3年までしか認められていません。この3年というのは個々の労働者が同一の派遣先で3年しか派遣労働できない、ということではありません。派遣元と派遣先の結ぶ契約期間が3年までしか認められていないのです。要するに派遣元と派遣先の契約期間が平成22年の4月1日から平成25年の3月31日の3年間の場合、平成22年4月1日から働き始めた派遣労働者も、平成25年1月1日から働き始めた派遣労働者も、平成25年3月31日までしかその派遣先で働けないのです。

2009年問題というのは、2006年ごろから爆発的に増えた製造業への派遣契約期間が2009年でちょうど3年を迎える、つまり、派遣元と派遣先の派遣契約が切れ多くの派遣労働者が職を失うことによる労働市場の混乱にどう対処するかという問題でした。

しかし、この2009年問題は2009年問題として世論に認知されることはほとんどありませんでした。その前年である2008年にリーマンショックが起こったため、2009年問題はそのまま「派遣切り」や「派遣村」騒動へとすり替わってしまったからです。

その2009年から3年以上が経ち、現在、派遣労働市場ではこの2009年問題が再燃しています。

そして、その問題をさらに複雑化しているのが今回の改正です。

実は、上記の派遣契約は3年までというルールにはちょっとした抜け穴があります。それは空白期間を設けること。3年の契約期間満了後3ヶ月を超える期間の空白期間を設ければ、派遣元は同一の派遣先と以前と同様の派遣契約を結ぶことができるのです。そのため、これまでは派遣契約3年経過後、その空白期間に当たる3ヶ月間、派遣先が派遣労働者を直接雇用し、空白期間終了後、再び派遣元に雇用され派遣労働者に戻るというようなことが一部で行われていました。

それを禁止するのが「派遣先に直接雇用されていた離職後1年以内の労働者を、派遣元は派遣労働者としてその派遣先に派遣してはいけない」という今回の改正です。

これにより、上記のように派遣契約3年終了後、空白期間の3ヶ月のあいだ派遣先に直接雇用されてしまった場合、その後1年間は派遣元に戻って派遣労働者としてその派遣先に派遣されることが不可能となりました。厚労省の言い分としては、空白期間だけでなく、その後もちゃんと直接雇用してあげなさい、ということなのでしょう。

これは一見いいことのように思えます。

また、上記のような脱法行為に近いようなことはコンプライアンスという意味では決してほめられたものではないでしょう。

しかし、厚生労働省の無知なお役人さんの知らない現実として、世の中には派遣先となる会社が1つしかないような小さな派遣会社というのは決して珍しくもないし少なくもありません。

そうした会社にとって、今回の法改正というのは文字通り死活問題です。なぜなら、派遣先の会社に直接雇ってもらう分には、派遣元に直接的な利益はないかもしれませんが、仕事に穴を開けることなく空白期間経過後もそのままの流れで仕事を行うことが可能ですが、それなしで完全に空白期間を設けるということは、他のライバル会社に仕事を取られてしまう可能性が高まるからです。空白期間のあいだも派遣先は労働力を必要としているのですから。

また、そこで働く派遣労働者にとっても同様に死活問題です。派遣労働者というとネットカフェ難民のイメージなのか若者のイメージがありますが、実際には転職市場で厳しい立場にある中高年の方々もたくさんいます。そういった方々にとって、派遣とはいえ仕事があるということは大変に大きなことなのです。

タイトルの「厚労省が派遣労働者を殺す」というのは比喩的な意味ではありません。実際に今の厚労省は法律によって「人」を殺そうとしているのです。派遣社員だけでなく契約社員も同様です。その数はブラック企業が殺す労働者の数の足元にも及ばないでしょう。

追記:訂正です。空白期間の3ヶ月間は派遣先が派遣会社やスタッフを変えても、同一の場所や同一の業務で派遣労働者を就業させることはできません。私が勘違いしていました。すいません。

なので、上記のように派遣業務を行うライバル会社に仕事を取られることはありません。ですが、その3ヶ月間のあいだに請負業務を行う企業に仕事を取られてしまう可能性は否定できません。この場合、もともと派遣を行っていた会社が請負として業務を行うことも可能です。もちろん、偽装請負と判断されないためにはクリアしなければならないハードルはいくつもありますが。

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名古屋の社労士事務所、川嶋事務所の代表で、このブログの筆者。 新しいこと、もの、特にIT関連が大好きで、社労士としては会社・労働者のITトラブル対策・就業規則作成が得意分野。 著書に「「働き方改革法」の実務(日本法令)」の他、「ビジネスガイド」「SR」への寄稿、中日新聞での「働く人を守る労働保険」を連載など執筆活動もしてます。