解雇

従業員が都知事選に出たいと言い出したとき、会社は解雇していいか

2016年6月20日

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舛添東京都知事が辞意を表明し、都知事選が行われる見通しとなりました。

前も書きましたが、わたし自身は東京都民でないので正直どうでもいいです。

が、例えば、あなたの会社の従業員の誰かが今回の都知事選に出たい、供託金の300万円払ってでも出たいといった場合。あるいは夏の参議院選やその他選挙に出たいと言い出したとします。で、おまけに、会社を辞める気はないと、言ってきた場合、会社はどうしたら良いのでしょうか。

当選前と当選後で考えてみましょう。

 

当選前

まずは当選前の話。

大前提として、労働者の選挙権や被選挙権といった公民権について、労働基準法第7条で保障されています。

(公民権行使の保障)
第七条  使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる。

そのため、選挙に立候補して自身の選挙運動を行うことは公民権の行使にほかならないため、会社は拒否できないことになります。

第7条には、公民権の行使の妨げにならなければ、会社は時刻を変更することができるとありますが、選挙日や選挙運動できる日がそもそも決まっているので、会社が変更を加えられる余地はほとんどないと考えるべきでしょう。

よって、従業員が都知事選その他の選挙に出たいと言い出した場合、立候補することや選挙運動のための時間を会社は認めなければなりません。

ただ、こういった時のために、ほとんどの就業規則の休職規定に、理由として「公民権の行使」みたいなものが入っているはずです。

ただし、従業員の誰かが他の立候補者の選挙運動を手伝うことまで認める必要はありません。

自分が立候補してその選挙運動を行うのは被選挙権の範囲といえても、他の人の選挙運動を手伝うのは選挙権でも被選挙権でもないからです。

 

当選後

さてさて、選挙が終われば、選挙運動のあいだに空けてくれた穴を埋めるべく、その従業員が戻ってきてくれるかとおもいきや、何と当選!

選挙に当選したとなると、その従業員は議員、あるいは都知事として業務を行うことになります。労働基準法第7条的に言えば「公の職務」の執行するわけです。

しかし、議員としての業務を行う従業員と会社が、まともな労働者と会社の関係として成立するかといえば、なかなかに難しいのが正直なところ。

で、そのへんのところをあまりに正直にやり過ぎた判例に「十和田観光電鉄事件」というのがあるのですが、こちら、ある労働者が市議会議員に当選したので休職させてほしいと会社に申し出たところ、会社はその労働者を「懲戒解雇」してしまったのです。

懲戒解雇はいわば罰として解雇するわけですから、かなり重たい、死刑判決のような処分です。

で、労働者の方がこれは労働基準法第7条違反だと、会社を訴えた結果、労働者が勝訴しました。公職に就任したことを理由とする「懲戒解雇」は労働基準法第7条の趣旨にそぐわないというわけです。

 

懲戒解雇はダメだけど普通解雇は良い!?

しかし、この「十和田観光電鉄事件」の判決、懲戒解雇はダメだけど「公職に就任することが会社業務の遂行を著しく阻害する虞れのある場合においても、普通解雇に付するは格別」と述べています。

「懲戒解雇はダメだけど、業務に影響があるので普通解雇にするのなら話は別」と言ってるわけです。

この判決以降、似たような事件である社会保険新報社事件では普通解雇を有効と判断しています。

つまり「公職に就任することが会社業務の遂行を著しく阻害する虞れのある場合」、議員等に当選した労働者を「普通解雇」することは可能なわけです。

議員等に当選して「公職に就任することが会社業務の遂行を著しく阻害する虞れのある場合」がないことのほうが普通だと思うので、まあ、できると考えていいでしょう。

 

よって、当選前の、立候補したり選挙運動したりといった活動に対して、会社が制限をかけることはアウトですが、当選した後で、会社の業務を行うことがどう考えても無理な場合には、普通解雇してもいいことになります。

「いい」だけで「しなくてはならない」わけではないので、会社として当選した従業員との関係の継続を望むのであれば、休職扱いなどにするのも全然いいとは思いますし、当然、本人がどうしたいかにもよります。

また、労働基準法第7条はあくまで「時間を与えなさい」と言ってるだけで、その分のお金も払いなさい、とは一言もいってないので、有給か無給にするかは会社の自由。ノーワーク・ノーペイなので、基本は無給でしょう。

最後、労働基準法第7条だけを読むと、議員などの公の職務に必要な時間を労働者が請求した場合、会社は拒んではならないとされているので、普通解雇であれ、解雇なんてとんでもない、と思う人もいるかもしれませんが、法律というのはその条文だけではなく、他の条文や一般常識とのバランスで運用されるものなので、こういったことも全然あるのです。

 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 3冊の著書のほか「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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