時事のよもやま話

正社員と非正規雇用の関係だけ見ても無駄!「正社員とブラック企業」の密接な関係

2016年5月24日

最近は自分の意見・オピニオンを述べるような記事をこのブログではあまり書いていませんでしたが、たまには良いでしょう。

朝日新聞の記事(フォーラム)にこんなのがありました。

(フォーラム)正社員という働き方:1 いいことばかり?

読んでもらうとわかると思いますが、上記の記事は基本的に、正規と非正規で働く人たちそれぞれの意見を元に記事が構成されています。まあ、ありがちな正規と非正規の比較を一般アンケートでやってるだけです。

正規雇用からの意見の中にも正規雇用に対する疑問や不満が多く見られるのは興味深いところではありますが、ただ、正社員という、日本的な雇用の象徴とも言える存在を語るには非正規との比較だけでは不十分です。

 

正社員にはステータス「も」ある

上述の記事の中にこんあ意見がありました。

正社員というステータスを持っていたために、何千万円という住宅ローンを借りることが出来た。やはり信頼向上に一役も二役も買っていると思う。今後ともこのステータスを大切に守っていきたい」(神奈川県・30代男性・正社員)

正社員にはステータス、つまり、社会的な地位や安心感があるとの(臆面もなく言っている)意見ですが、同時に正社員の場合、非正規と比べて福利厚生の充実や賃金などの面で労働条件が高いのが普通。

逆に、非正規の場合、ステータスもなければ待遇面も悪い。

しかし、今の世の中には「ステータスもあって待遇も良い」働き方と「ステータスもなければ待遇も悪い」働き方の2つしかないわけではありません。

正社員という「ステータスはある」けれど、「非常に待遇が悪い」という働き方もあるのです。

それがいわゆる「ブラック企業の正社員」です。

まとめ

正社員

  • ステータス◯
  • 待遇○

非正規

  • ステータス×
  • 待遇×

ブラック企業の正社員

  • ステータス◯(?)
  • 待遇×

 

ステータス「だけ」のブラック企業の正社員

もちろん、実際にブラック企業の正社員にステータスがあるか、は多少議論のある所だと思いますが、非正規のアルバイト等に比べると周りに顔が立つのは確かでしょう。

また、フォーラム内の意見でもあるように、

「一度レールから外れると正社員として再び働くことが難しくなる世の中が不公平だと思う。新卒至上主義をやめてほしい」(神奈川県・30代女性・非正規雇用)

普通の正社員であろうと、ブラック企業の正社員であろうと、その地位を捨てて非正規になると、再び正社員なること、あるいは正社員になれても以前と同程度の待遇が受けられるかは全く保証がないのが、今の日本の労働市場でもあります。

そのため、ブラック企業であっても正社員でいることに価値がある、と考える労働者が世の中には少なからずいる。

こうした人たちを、ブラック企業は正社員というステータスを「餌」に、会社に引き寄せ縛り付けているわけです。

(ブラック企業に比べてブラックバイトが盛り上がらないのは、ブラック企業のような正社員への幻想みたいなものがないから。みんなバイトは待遇が良くないことはわかってやっているので、過度な期待がない)

 

正社員とブラック企業の密接な関係

ステレオタイプ的な、通常の正社員と非正規の比較だと「正社員の待遇が良すぎて非正規との格差を生んでいる」という問題以外に、正社員の問題が見えにくい。

一方で、通常の正社員とブラック企業の正社員を比較すると「正社員のステータスが未だに高いこと」も正社員の問題として見えてきます。ようするに、「正社員のステータスが未だに高いこと」がブラック企業を生み、存続させ続けている、と考えられるわけです。

よって、正社員とブラック企業というのは、お互い密接に関係している。

それを無視して正規と非正規の関係だけを見ても、正社員の問題はおろか、日本の雇用制度の不平等が解決することはありません。

また、ブラック企業の労働条件を労働基準法に適合させて、ブラックでなくせばいいのでは、つまり、待遇面で良くしていけば通常の正社員とおなじになる、と考える人もいるかもしれません。しかし、ブラックの大半は和民やユニクロのような大企業ではなく、中小零細であり、労働基準法を守るコストを払っても企業が存続できるか、といえば多くはそうはいかないのではないでしょうか。

テレビ局と制作会社の関係を見れば明らかだが、大企業の正社員の特権的地位を支えているのは、結局非正規とブラック企業の正社員なのだから、ここでもやはり、正社員とブラック企業は切っても切り離せない関係にある。

 

現在議論されている同一労働同一賃金は、達成されれば正社員の特権的な地位を奪うことは間違いないでしょう。ただ、現在のものは本来労働市場の流動性で達成すべきものを、政府主体・法律主体で行おうとしている非常にいびつなものなので、本当に達成されるのか、されたとしても完全な形で達成されるかはわかりません。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 3冊の著書のほか「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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