就活・雇入れ

給与の額面だけだと思ったら大間違い!社労士が教える人を雇うときにかかる本当のコスト

2016年5月6日

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起業や独立してしばらくは1人でやってきたけど、そろそろ人を雇おうとお思いの経営者や起業家のみなさま。

もしかして、人を雇う時にかかるお金は給与だけ、なんて思ってはいませんよね。

こんなことを言うと、税金のことでしょう?、とか、社員教育とかPCなどの備品とか、給与以外のコストを思い浮かべる人もいるかもしれませんが、それはまあ確かにそうなんですけど、今日話したいのは給与と紐付いてやってくる社会保険料や労働保険料のことです。

これらの保険料の額を見誤ると、自分たちが思っていた以上に人件費が嵩むことになります。特にスタートアップだと、資金繰りが厳しいことも多いので、求人を出したり時給や基本給を決める前に、ぜひ本記事を読んでいってください。

※ 以下で計算する保険料の料率は2016年のもので計算しています。

 

社会保険・労働保険料は、基本的に労使で折半

例えば、時給1000円で1人、人を雇うとします。1日の労働時間は8時間で、月の所定労働日数が20日だとすると、この人の月収は16万円になります。

でも、皆さんご存知とおり、この16万円がまるまる労働者に支払われるかといえばそういうわけではありません。

税金や社会保険料が引かれるからです。このうち、税金に関しては、取り敢えず置いておきます。わたしが社会保険労務士で、税金の専門家ではないから、というのもありますが、税金は本来労働者が支払うもの。源泉徴収や特別徴収といった形で会社が徴収するとはいえ、実際に会社のお金で支払っているわけではないからです。

なので、所得税や住民税というのはいくら多額になっても、会社の懐が痛む、というものではありません。

一方、社会保険料や労働保険料は、額が大きなればなるほど会社の負担も増えます。なぜなら社会保険料や労働保険料は会社と労働者が折半、もしくは会社が全額負担するからです。

 

労使ともに社会保険料の負担は大きい

まず、社会保険。社会保険の保険料には健康保険と厚生年金、それに40歳以上65歳未満の場合は介護保険料がかかります。

先ほどの例で言うと、月収が16万円の場合、標準報酬月額も16万円になります。これに料率をかけたものが社会保険料となるわけです。

今回は主題とそれるので面倒な計算式等は省きますが、月収が16万円の場合、愛知県だと健康保険料は15952円介護保険料もかかる場合だと18480円となります。(とりあえず、以下からは前者の介護保険料を含まない場合で見ていきます)

結構な額ですが、厚生年金の保険料はもっと高いです。月収が同様の場合「28524円」ですからね。

このうちの半分は労働者の給与から引いてもいいので「15952円÷2=7476円」と「28524円÷2=14262円」を労働者の給与から引くことができます。

では、もう半分は? となると当然会社が払うことになります。つまり、16万円にプラスして「7476円+14262円」を会社は余分に負担する必要があるわけです。

また、会社は労働者の標準報酬月額に合わせて「子ども・子育て拠出金」というものを支払わないといけません。こちらは労働者と折半することはできないので会社が全額負担します。拠出金率自体は「0.2%」と健康保険や厚生年金の料率に比べれば可愛いものですけどね。

今回の例で見ると、「7476円+14262円」に、子ども・子育て拠出金は「320円」を足した「22058円」が元々の給与に上乗せでかかるコストになります。

 

労働保険は料率が低い

労働保険も同様です。といっても、社会保険に比べると料率が低いのが救いといえば救いですがね。

まず、雇用保険をみると、一般的な事業の場合、労働者の負担は0.4%、会社の負担は0.7%になります。なので、会社が給与に上乗せで払うのは、16万円の0.7%で「1120円」

労災保険の保険料はどうでしょうか。労災の保険料は会社が全額負担しますが、労働者の給与によって決まるので、実質的には会社が人を雇った際に発生するコストとなります。

労災の保険料率は業種によって異なります。労災の危険度が高いほど料率が高くなりますが平均で見ると約0.47%ですが、とりあえず、ここではサービス業を想定して0.3%にしておくと、16万円の0.3%で「480円」。

これに加えて、労働保険では石綿健康被害救済法の一般拠出金がかかります。といっても、その保険料率は0.00002%ですが。なので、今回の例だと「3円」(笑)。

 

まとめ

今回の例で、給与の額面以上に会社が負担しなければならない額は

  • 健康保険料「7476円」
  • 厚生年金保険料「14262円」
  • 子ども・子育て拠出金「320円」
  • 雇用保険料「1120円」
  • 労災保険料「480円」
  • 石綿一般拠出金「3円」

の合計で「23661円」。

結構な額ですね。給与の額面から考えると約15%の割増です。

悲しいのは、会社としては「160000円+23661円=183661円」も負担しているのに、そのうち労働者の手取りとなるのは「133308円」(扶養親族がいない場合。実際にはここからさらに税金も引かれる)。

実に会社負担の27%もの金額が保険料として国に持って行かれてしまうわけです。

なんというか、もらう方も悲しいですが、あげる方もあげ甲斐がない。

しかし、法律で定められている以上、支払わないわけには行かないので、会社としてはせめて、人を雇う場合は額面よりもお金がかかる、ということを理解し、会社のコストと労働者の手取り分がいくらになるのか、ということを意識しておくべきでしょう。

でないと、会社としては「こんなにも払ってるのに」と思いはじめ、一方で労働者としては「こんだけしかもらってないのに」という風に思い出してしまうと、両者の溝がどんどん広がって、互いの関係が破綻してしまうことは避けられないでしょう。

 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 3冊の著書のほか「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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