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社労士目線でクラウド労務管理サービス「SmartHR」の使い心地を試してみた

2016年4月15日

「すべての労務管理を1クリックで」がキャッチフレーズのクラウド労務管理サービス「SmartHR」。メディアでも取り上げられているので見聞きしたことのある人も多いのでは。

マイナンバーにより社労士の手続き業務がなくなると言われていますが、行政側の対応の遅さを見るに、こっちの方が相当にやばいんじゃないかと思い、案ずるより産むが易しの精神で無料体験してみました。

 

まずはアカウントの作成

アカウントの作成はかなり簡単で、SmartHRのサイトにある黄色の「無料で試してみる」ボタンをクリック(スマホ完全対応なので、スマホからやる場合はもちろんタッチ)すると、以下の様な画面となり、アカウント専用のURLとメールアドレスパスワードを入れて、規約等に同意するだけ。

smarthr

登録ボタンを押すと、メールが来るので、メール内のアドレスをクリック。

そこから会社の名前や住所、電話番号など必須事項を記載するだけでアカウントが作れます(必須事項についても後で変更は可能)。

SmartHR2

 

途中、月額料金を支払うためのクレジットカードの登録画面がありますが、無料体験は番号を登録しなくてもできます。

 

対応手続きはまだまだ少ない

で、こちらがSmartHRのダッシュボード(ホーム画面)。(画面左上の黄色い枠の内容は、情報をきちんと入れれば消えるはず) この画面から各種手続きを行っていきます。

SmartHR3

 

現状、SmartHRから行える手続きは、雇用保険・社会保険の入退社と社会保険の扶養の追加と削除、住所変更に月額変更の6つと、正直かなり限られています。

また、一部の手続きについては電子申請に非対応で、申請書への印字にしか対応していなかったりするのは、うーんとなってしまいます。

(ちなみに電子申請は社会保険労務士法人スマートエイチアールの電子証明書を利用するため、電子申請前に委任状をSmartHRに送る必要がある。)

もちろん、今後対応予定ではあり、それ以外の手続きについても、今後、育休や産休などの手続きや、社会保険の算定基礎と労働保険の年度更新へ対応したり、秋冬までに年末調整できるようにする予定のようです。

なので、今回の記事のタイトル通り「社労士目線」で見ると、「行える手続きが少ない」というのは大きな不満点ですが、まだまだスタートアップの段階、時間が経てば充実していくのは間違いないでしょう。

 

手続きに必要なデータを従業員が入力できる

では、実際に手続きを行う場合はどうかというと、一番驚いたのが、従業員本人に自分の情報を入力させられること。

どういうことかというと、会社が従業員を会社のSmartHRアカウントに招待し、そこからアクセスしてもらって名前や住所、電話番号など労務に必要なデータを入力してもらうことができるのです。入力してもらったデータはそのまま雇用保険や社会保険の手続きに使えます。

これ、実は相当にヤバイです。

従来の手続きですと、従業員からもらった履歴書や年金手帳などから、手続き等に必要な情報を拾ってそれを管理ソフトなどに入力して社会保険や雇用保険の手続きをしていく、というのが普通でした。

SmartHRでも当然そうした入力には対応しているのですが、そうした今まで人事・総務や顧問の社労士事務所がやっていたような入力作業を従業員本人にやってもらえるわけです。これはかなり楽。

従業員の方からするとちょっと手間ですけど、自分のことなので名前や住所などの細かいところを間違えることも少ないはずだし、書き(打ち)慣れていて早いのは間違いない。ていうか、入ったばかりで、重要な仕事に就くって割とレアケースなんだから、それぐらいやる時間あるでしょう。

それに、なんやかんやで、一番データ入力しないといけないのは入社時なので、これを従業員の方にやってもらえるのは手続きをする側からすると大きいですね。もちろん、入力してもらったデータは手続き以外にも使えるし。

SmartHR5

入社手続きのこちら画面で「本人に入力してもらう」を選ぶと、

SmartHR6

従業員のメールアドレスを登録する画面が表示されます。右下の招待を送信するのボタンを押すと、登録した従業員のメールアドレスにメールが届きます。

SmartHR7

招待メール内のアドレスをクリックすると、このようにデータ入力画面に飛びます。必須事項をすべて記入すると、SmartHRでの従業員本人のアカウントが作成されるので、以降は自分の情報に変更があった場合は、従業員本人がアクセスして変更することができます。

 

入力はすべてフォーム形式。ToDoリストの自動作成も

また、社員のデータ入力や取得届などの登録は、基本的にすべてフォーム形式となっていて、何をどこに書いたらいいのかが非常にわかりやすいのも◯。

フォーム形式だと、必須事項が記載されていないと申請ができないので、書き漏らしがないのも安心。

ていうか、役所が出している紙の書類って、パっと見どこに何を書いたらいいのか非常にわかりづらいんですよね…。

社保取得

どこに何を書いたらいいのか、慣れてない人にはわかりづらい…

SmartHR8

フォーム形式なら見た目もすっきりだし、何を書けばいいのかもわかりやすい

一部の専門用語にはちょっとした説明やヘルプが付いていて親切。おまけに、申請書類の作成後にはこれからなにをやったらいいか、手続き漏れがないようにとToDoリストまで自動作成されるという隙の無さ。

SmartHR9

手続き漏れするほうが難しいほど親切

ちなみに、フォーム形式は、少数の入力や手続きをやるには間違えづらくていいのですが、大量のデータ入力にはちょっと向いてない、というわけで、データの入力にはCSVでのインポートにも対応しています。

 

対応手続きが少ない以外、文句のつけようなし

なんというか、どん引いてしまいました。

できることがまだまだ少ない、というのがこのサービス最大の難点かと思うのですが、それ以外についてはあまり文句を付けるところがありません。

ユーザーインターフェースは親切だし、スマホにももちろん対応監査ログも残るようになっているので、SmartHR上で誰が何したかもまるわかり。

クラウドの話になると必ずと言っていいほど乗っ取りの心配される方がいますが、二段階認証に対応しているのでアカウントを乗っ取られる心配もほぼなし(ただし、スマホ紛失には気をつけて)。

はっきり言いますがわたしが社労士以外で起業して従業員を雇うなら、手続きを社労士頼むことなくSmartHRを使います。はっきり言ったことで、わたしの社労士としての寿命は確実に短くなった気がしますが、それはそれでしょうがない。便利になることに反対する人間は人類の敵なのだ。

また、事務がしっかりしている会社、というのは社労士にとって手のかからないとてもありがたいお客さんなのですが、そうした会社の事務なら、おそらくSmartHRを簡単に使いこなすだろうしね。

 

社労士業務初心者にも優しいUI、業務用ソフトにも期待

で、このSmartHR、企業向けにサービスを展開する傍ら、「SmartHR for Advier」という形で社労士の業務用ソフトにも乗り出す模様。現在は事前登録段階ですが、早速登録しておきました。

フォーム形式やToDoの充実により、社労士事務所に人事労務や手続きの知識なく入った人にもわかりやすいと思うので、教育コストの削減につながることは間違いなさそう。

そもそもPCから始まってる業務用ソフトってどれも結局は発想が紙というか、紙一枚に収めるかのように、一画面にすべての情報を入れようとする。だから、役所の書類みたいにごちゃごちゃしてわかりづらいんですよ(だいたいエクセルからして…)。

一方、SmartHRのように、スマホ前提のものだと、そもそも一画面に収まらないし収めても見辛いだけ、そのため、何度もスクロールすることが前提となっている。スマホならスクロールするのも面倒ではないし、一画面の情報量も少ないのでわかりやすい。

これに加えて、クラウドと二段階認証と監査ログの組み合わせで、ついに情報管理の厳密さが求められる社労士業務でもパートさんなんかの在宅勤務が可能になるかも、と思ったけど、よくよく考えたらスクショや液晶を直接写真に撮られたらアウトなのでそれはちょっと無理か…。

 

SmartHRによって、社労士の手続き業務がなくなる未来がまた鮮明に見えるようになってきました。まずは東京からで、名古屋に来るまでは多少時差があるのでしょうが、わたし自身は、良くも悪くもいろいろな意味でドキドキしております。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 3冊の著書のほか「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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