サンクスの件に絡めて、今回も労働協約の話。
前回は労働協約と労使協定の違いについて説明しましたが、労働協約でより重要なのは就業規則や労働契約との違いや使い分けについてです。それぞれについて簡単に説明すると
- 労働協約:会社と労働組合のあいだで、労働者の労働条件について締結する協約
- 就業規則:会社が定める会社の規則。会社内のルールの他に労働者の労働条件についても定める
- 労働契約:会社と労働者のあいだで、労働者の労働条件について締結する契約
つまり、どれも労働者の労働条件を定めるものなわけです。
で、実はこの3つには以下のように、歴然とした上下関係があります。
労働協約>就業規則>労働契約
つまり、就業規則に「法定休日は土曜日」、と定められていても労働協約に「法定休日は日曜日」と定められていた場合、労働協約に定められている「法定休日は日曜日」というのが優先されるわけです。
ちなみに、就業規則と労働契約の関係では、例えば、労働契約のほうが労働者にとって有利な条件が定められている場合、基本的にそちらが優先されます。一方、労働協約と就業規則&労働契約の関係では、例え、就業規則&労働契約の方が労働協約よりも労働者に有利であっても、労働協約の方が優先されます。
就業規則は会社が定められる
で、実は就業規則と、それ以外の労働協約と労働契約とでは、決定的な違いがあります。
というのも、労働協約なら労働組合、労働契約なら労働者、といった具合に相手がいます。つまり、相手の合意がないことには結べないので、必ずしも会社の自由に条件を定められるかというとそうともいえないわけです。
一方の就業規則は、基本的に会社だけで定めることができます。
就業規則は労働基準監督署に提出する際に労働者の意見を聴く必要はあるものの、この意見は反対意見でも構わないとされているため、結局、実質的なイニシアティブは会社にあるといえるわけです。
まあ、会社と労働者のあいだは、建前上は対等といえど、実質的には上下関係があるので、現実には労働契約も、会社がある程度主体となって定めることはできるわけですけどね。
労働協約は結ばないに限る!?
しかし、労働協約だけはどう転ぶかわからない。
労働協約を結ぶ相手である労働組合がどのタイプの労働組合かにもよりますが、例えば、大企業に多い企業内の組合であれば、互いの利益や会社の状況を鑑みて話し合いを行うことができることも多いでしょう。
一方、今回のサンクスのときのように、外部のユニオンが出てくると、話し合いが通じるとは限りません。ユニオンとの労働争議が長引くと、経営者の方もかなり消耗します。
で、そうしたなかで、早くこうした労働争議を終わらせたい一心で労働協約を結んでしまう、ということがあるわけです。
今回のサンクスの件のように、1分単位で賃金を支払え、というのはまだ可愛い方で、例えば、「今後、人事異動や昇格・降格を行う際は労働組合の意見を聞く」みたいな協約を結んでしまうと、会社にとって最も大きな権限の一つといえる人事権を労働組合に握られてしまうことになるわけです。
なので、誤解を恐れずに言えば、会社側からすると労働協約はなるべく結ばないに限るわけです。労働協約があると、就業規則を作成したり、変更する際に影響を受けることになります。
ただ、そもそも、外部のユニオンが出てくる状況というのは、その会社の労務管理があまりうまくいっていない可能性があります。そして、事態が悪化し続けると、労働協約を結ばざるをえない状況に陥る。
よって、そうなる前に、会社が主体となって定めることのできる就業規則を整えることで、こうした争いを避けることが重要です。