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プロスペクト理論 労務管理と行動経済学

ダイエットも資格取得も社員に本気を出させたいなら、ご褒美はあげるな

どうもこんにちは、社労士で行動経済学会会員の川嶋です。

最近、行動経済学の話をこのブログで全然できていないので、ちょっとアピールしてみました。

で、まさにこれぞ行動経済学を活かした施策だなあ、と思ったニュースがあったので今日はこれについて。

減量した社員に報奨金なんて効果薄-やせない人に罰金の方が有効

 

先にもらうか、後でもらうか

記事によると、これ、アメリカの大学で、そこの職員を対象に行われた実験でして、被験者を

  1. 1日に7000歩以上歩くと1.4ドルもらえる
  2. あらかじめ月の最初に42ドルを支払い、1日に7000歩以上歩かないと1.4ドル没収する
  3. 7000歩歩いても何ももらえない

という3つのグループに分けて、3ヶ月実験を行いました。

2のグループで月の最初にもらえる42ドルというのは、1.4ドルの30日分なので、あらかじめ30日分を先払いし、達成できないと、そこから引いていくことになります。

よって、1のグループと2のグループについては、インセンティブを先に支払うか、後で支払うかが異なるだけで、もらえる金額は変わりません。

で、結果なのですが、3ヶ月間の7000歩以上達成率は以下のようになりました。

  1. 35%
  2. 55%
  3. 30%

1と3にほとんど差がないのに、2だけ明らかに高い!

 

所有意識がものの価値を見誤らせる

すでに述べたように、1と2のグループについては、支払い方が異なるだけで、もらえる金額が違うわけではありません。

しかし、結果は、2のように、すでにもらったものを後で返さないといけないという可能性のある方法の方が、より大きな効果を生んでいます。

どうしてそうなるのか、理由として考えられるのは、まず1つ目が所有意識です。人間にはものを所有すると、それを手放したくない、というバイアスがかかります。

ブックオフやヤフオクなどでものを売ろうとしたときに、自分が思っていたよりも明らかに安い額しか付かなくてがっかりした、という経験をしたことがある人も多いと思いますが、これが所有意識によるバイアスです。

一度所有したことに対する愛着、それを失う喪失感に対して、心理上で実際の相場よりも高く値をつけてしまうため、実際の相場を知ってがっかりしてしまうわけです。

上記の大学の実験では、2のグループはすでにもらった42ドルに所有意識を持ってしまい、それを手放したくなかったと考えられます。

 

人は誰しも損したくない生き物

もう一つの理由がプロスペクト理論とそこから派生する損失回避性です。

プロスペクト理論とは、同じ金額でも、手に入る場合と失う場合とでは、人間の価値の感じ方は異なるというものです。

(プロスペクト理論については詳しくは、昔書いたこちらの記事を)

人間の精神をゲームキャラクターのHPに例えるなら、同じ1万円でも、手に入る場合は+100回復するけれど、失う場合は-200のダメージを負ってしまうようなものです。

このため、人間の精神というのはできうる限り損失を回避したいと考えたがります。これが損失回避性です。

2のグループは、7000歩以上歩かないとすでに得たものを失う、という上記の条件にこの損失回避性を刺激されたと考えらるわけです。

 

人を動かすならご褒美よりも…

この実験結果からわかるのは、人を動かしたいのであれば、単にご褒美をあげてもほとんど効果は無く、すでに所有しているものを失うのはイヤ、という意識を刺激しないといけないわけです。

よって、例えば、社員に会社のために何らかの資格を取ってもらいたい、資格取得を奨励したいと考えるなら、その分の資格手当を前払いし、ダメだったら後で返してもらった方が効果が望めるわけです。

 

法律上、給与の前払いは可能なのか

でも、法律的にそんなことしていいのかどうか気になる方もいらっしゃるかもしれません。あらかじめ支払った給与を、条件次第で取り上げるわけですからね。

ここで押さえておきたいのは、(資格手当やそれ以外手当でもいいのですが)給与の前払い、というのは経理上は「金銭の貸付け」に当たるということです。

なので、当該資格や条件を達成できなかったときに没収する、つまり、返済してもらうことは可能ですし、条件が達成された際は、債券の放棄、つまり、貸し付けた金銭の権利を会社が放棄すれば良いわけです。

(このあたりのことは、わたしも基本素人なので、詳しいことについてはこちらの記事を読んでもらうか、顧問の税理士・会計士さんにお願いします。)

 

ちなみに、何らかの条件をつけて資格取得を奨励するために、前払い手当等なく、いきなり基本給等から減額する、という方法は、減給に対して、厳しい判例の多い日本の労働環境では(効果はともかく)リスクが高いと思います。

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わたしも、単発業務なんかで、自分の報酬も前払いにしてもらった方が頑張れるのかなあ、と思うこともあります。相手の了承が取れるかはまた別問題ですが

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名古屋の社労士事務所、川嶋事務所の代表で、このブログの筆者。 新しいこと、もの、特にIT関連が大好きで、社労士としては会社・労働者のITトラブル対策・就業規則作成が得意分野。 2016年4月から9月まで中日新聞で「働く人を守る労働保険」を連載、開業社労士専門誌「SR」に寄稿するなど、メディアでの執筆活動も。