時事のよもやま話

SMAP4人を干す実行犯はジャニーズではなくテレビ局

2016年1月20日

就業規則には通常、労働者に対して競業避止義務が規定されているものです。

ようするに、会社に所属しているあいだは、会社の競業となるような仕事をしてはいけないわけです。

では、すでに会社を辞めた労働者に対して、そうした義務を会社が課すことができるかと言えば、これはかなり難しい。就業規則というのは、あくまで会社内でのみ有効な規則であり、辞めた人には関係ありません。

もちろん、企業秘密の漏洩などが危惧される場合は別ですが、それでも制限できて半年とか1年、最高でも2年くらいが限界だと思ってください。

ちなみに、F1の世界では、チームの有力者が別チームに移籍する際は、半年から1年、契約でほぼ強制的に有給休暇を取らされます(これを俗にガーデニング休暇と呼ぶのは、F1がイギリス発祥だからでしょうか)。

このガーデニング休暇中は、元の所属先と契約がある状態なので他チームで働くことはできません。もし働いたら二重契約で、賠償です。本当に漏洩が困るのなら、労働契約がなくなった後の就業を阻止するより、契約があるうちに対処した方が確実な訳です。

 

職業選択の自由

それにしても、どうして、退職者の競合他社や独立を、会社が制限することは難しいのでしょうか。

それは、日本国憲法が労働者に職業選択の自由を認めているからです。

もちろん、他社への移籍や独立により会社のノウハウや技術を簡単に持っていかれては、会社にとっても大きな損害となるので、会社の権利(財産権)と労働者の権利(職業選択の自由)の兼ね合いから、制限できるとしたら半年から1年が関の山なわけです。

 

アイドルにだって職業選択の自由はある、が…

というわけで、前置きが長くなりましたが、今回の本題SMAPのお話。(長くなった割に、実は本題とあまり関係ないけど(笑))

ジャニーズのアイドルが労働者であれ、委託契約者であれ、職業選択の自由がある以上、ジャニーズ側がSMAP4人の独立や事務所移籍を制限することは基本的に難しいわけです。

それを知ってか知らずか、こちらの電子書籍では、メリー喜多川氏が飯島元マネージャーに、「(派閥を作るなら)SMAP連れて独立しろ」と言っており、独立することを阻むような意図は感じられません(めちゃくちゃ追い出し口調だけど)。

しかし、それができないのは芸能界の慣習として、事務所を独立した者は、独立された事務所の圧力により干される(仕事が与えられなくなる)からです。

 

干しの主犯と共犯

この「干し」が実際に事務所の偉い人からテレビ局などにお達しとしていくのか、それともテレビ局側が事務所に遠慮、つまり、空気を読むことで行われるのかは、テレビ局の内情に詳しくないのでわたしは知りません。

いずれにせよ、独立した芸能人の職業選択の自由を奪っていることに変わりありません。しかし、そのことで元所属先の事務所を訴えても、実はあまり意味がありません。

なぜなら、芸能人に実際に仕事を与えるのは、所属先の事務所ではなく、テレビ局などのメディアだからです。

(干された芸能人がテレビを離れ舞台やライブ、ディナーショーを行うのは、メディアからのオファーという、相手任せの仕事ではなく、自力で仕事を生むことができる数少ない手段だから)

独立された事務所の妨害工作を行うのは百歩譲っていいとしても、そうした妨害工作にテレビ局側が同調する限り、「干し」という慣例が芸能界からなくなることはないわけです。

 

今回の騒動のテレビ局の立ち位置

つまり、あのままSMAP4人が独立したとして干されたていたとして、彼らの職業選択の自由を奪う可能性があったのはジャニーズ事務所はまあ、主犯だとしても、共犯者としてテレビ局がいたわけです。

そうした視点で今回の騒動を振り返ると、騒動が起きてから、連日のように騒いでいたテレビ局やメディアは、もしあのままSMAPの4人が独立していたら「干す側」に回っていたと考えるのが普通で、それが先日の生放送以降、解散が回避されて良かった良かったという論調には、さすがに違和感しかありません。

良かった、というのは、SMAPが解散しなくて良かった、ということなのか、それとも、今後もSMAPをテレビで使える、つまり、干さずに済んだので良かったということなのか。

 

個人的には、メディアがジャニーズの年寄りなんて無視して、独立したとしてもSMAPの4人を使えばそれで良かったのでは、と思っていました。たぶん、ジャニーズに払うお金よりはギャラも安くなっただろうし、それができるのがSMAPだろう、と曖昧な期待を持っていたからです。

しかし、残念ながら、今回の件は出る杭は打たれるの典型的な事例で終わってしまいました。

そして、個性が大事とかチャレンジとかベンチャーだとか、そういうのが日本の社会ではすべて絵空事であることを、日本全体に老若男女問わずメッセージとして発信してしまった功罪は大きすぎると思います。
Smap Vest
Smap Vest

発売直後に、親友から借りたのが懐かしい…。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 3冊の著書のほか「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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