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Q「賃金制度を変えれば残業代の額を固定にできる」という話をある社労士さんから聞いたのですが。
A できないことはないですが、残業代を減らすベストな方法は、残業時間を減らすことですよ。
解説
賃金制度を変えて、残業代の額を固定にする、というのは十中八九、「定額残業制度」の導入のことを言っているのでしょう。「定額残業制度」は「みなし残業」と呼ばれることもあります。(残業代を減らすポピュラーな方法には他に管理監督者の適用除外を利用する方法や裁量労働制を導入する方法があります)
この「定額残業制度」とは、1ヶ月の残業時間をあるかじめ20時間なら20時間、40時間なら40時間と見積もり、実際の残業時間が何時間家にかかわらず、月々の残業代をその時間分の残業代で支払うというものです。
例えば、月の残業時間が20時間の場合、例え、実際の残業時間が10時間であったとしても会社は20時間分の残業代を支払わなければならないし、逆に30時間の場合、20時間分の残業代で済みます。
なんだかすごく良さ気な制度に思われるかもしれません。見込みの残業時間を実際よりも短く見積もれば、その分、残業代も安くなるし、毎月固定なので給与計算も楽ちんです。
しかし、現在の法制度で、こうした定額残業制度による残業代の削減を目指すのは非常にリスキーであると言わざるを得ません。なぜなら、近年ではこうした定額残業制度をめぐる労使トラブルが多発している上、そのほとんどで会社が負けているからです。
固定残業制度のリスク
例えば、先ほどのように月々の残業時間を20時間と見込んで定額残業制度を導入した場合。月によって多少の変動があるにしても、月々の実際の残業時間が本当に20時間であるのならそれで構いません。もちろん、実際の残業時間が20時間よりも短い場合も。
しかし、実際には毎月の残業時間が20時間を超えていて、しかもその超えている時間もかなり多いとなると、これは問題となります。
労働基準法をはじめとする労働法は、契約や規則などの決まり事や形式以上に、その実態を見ます。つまり、契約や規則では「残業代は固定で20時間分」となっていても、実態の残業時間が「40時間」となっていたら、差し引きの残業代20時間分を会社が支払う必要が出てくるのです。
確かに、固定残業制度で実態よりも少ない残業時間を設定しておけば、当面の残業代の額は低く抑えられるかもしれません。しかし、あるときそうした仕組みがおかしいと労動者が訴えてきたとき、それまでの分まとめて残業代として請求される可能性があるわけです。
そのため、どうしても固定残業制度を導入したい場合、実際の残業時間が見込みの残業時間を超える場合、その超えた分は実際の残業時間に基づいて残業代を支払うといった形にしておく必要があるのですが・・・、これでは残業代は減らせませんよね。
※ 本記事は旧社会保険労務川嶋事務所(名古屋)ウェブサイトのコンテンツを再構成したものです。