Airbnbに代表される「民泊」という制度について、日本政府は旅館業法の改正も含め規制を緩める方向で進めています。その背景には近年の外国人観光客増による宿泊施設の不足と、2020年に開催される東京オリンピックを見据えてのことです。
で、この民泊の規制緩和を進めるため、先日、政府の検討会が関係団体の代表者を集めたヒアリングが行われました。
で、その中で出た、旅館業界の団体の代表の「海外では民泊の利用客が犯罪の被害に遭うなど安全性に問題がある。民泊は特に中小の宿泊業者の経営を圧迫するため認めるべきではない」という発言には驚きましたね。
発言の前半はまだ分かりますが、後半の経営を圧迫って、それ、資本主義ではふつうのコトじゃないですか。
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マイナンバーで社労士の経営は圧迫されている
例えば、大型書店やブックオフの登場で、街の小さな本屋は経営を圧迫され潰れていきました。その大型書店やブックオフもamazonなどのネット通販や電子書籍との競争に晒されています。街の商店街だって、スーパーやショッピングモールに取って代わられて久しいわけですが、そこにもamazonの影が進出している。
また、テレビにしろ新聞にしろ、彼らの主な収入源である広告はどんどんネットの方に向かっていて利益を奪っています。
山口組の分裂もあって、今年は暴力団の話題も多かったですが、彼らが行っていた不動産の地上げや債権回収などは、暴力の力、つまり、違法な力を駆使しなくても、弁護士が合法的にやってくれます。暴力団の経営は弁護士によって圧迫されているわけです。
わたしのような社労士にしても、マイナンバーの登場で今後、経営が苦しくなることはほぼ間違いありません。だから、マイナンバーなんかやめろ、と、他の社労士はともかくわたしは思いません。前に書いたとおり、無駄なものはなくなるに越したことはない。
いずれにせよ、時代の変化やイノベーションによって、既存の事業の経営が圧迫されるなんてことは当たり前のように起きうるわけです。よって、宿泊業だけ「経営圧迫」を理由に規制が守られるなんてありえないし、むしろ不平等。
旅館の年間稼働率は約35%!
そもそもの話、以下の表を見て下さいな。
黄色で塗りつぶされているのが、各県で最も稼働率の高い宿泊設備ですが、旅館が一位の都道府県が1つもない!
そして、現在の日本の旅館の稼働率というのは全国平均で年間約35%ほどしかないわけです。つーか、これでよくマネタイズできたもんだ。
ビジネスホテルやシティホテルの稼働率の半分しか稼働してないことを考えると、旅館は民泊どうのこうのの前にやることいっぱいあるだろ、という話です。
ビジネスホテルは平日でもサラリーマンが使うけど、旅館は観光がメインだから土日や長期休暇中しか使われてないのかもしれませんが、そもそも激増している外国人観光客に曜日や祝日は関係ないでしょう。
旅館とビジネスホテルでは反対する理由が異なる
上の表で、千葉や大阪のリゾートホテル稼働率が異様に高いのは東京ディズニーリゾートとユニバーサル・スタジオ・ジャパンの影響かと思われます。というか、大阪や千葉って、その周辺以外にリゾートホテルなんてほぼないと思う。
そう考えると、大阪のリゾートホテルの89%という数字はかなり突出しているので置いておきますが、東京ディズニーリゾート擁する千葉のリゾートホテル81%という数字と、全国のビジネスホテルの平均77%という数字はかなり拮抗していることがわかります。おそらく、それだけ利益が出ている。東横インもルートインも順調に売上高を伸ばしてるし。
なので、一口に民泊が既存の企業の経営を圧迫すると行っても、旅館の場合は本当に経営の生き死に関わる所も多いかもしれませんが、ビジネスホテルなんかは単に利益が減るだけで普通にやっていけるところも多いはず。
それでなくても、最近のビジネスホテルは繁忙期と閑散期では宿泊料がぜんぜん違うし。観光シーズンの高額化に歯止めがかかるなら利用者からするとありがたいわけです。
賢者は幸福ではなく信頼を選ぶ
旅館業者は民泊解禁反対の理由に安全性の問題も上げています。
この点について、AirbnbやUberはサービスの質の担保に、実際にサービスを利用したユーザー同士の評判を用いています。
これにより、部屋を貸す方の評価が悪いのばかりならその人から部屋を借りようという人はいなくなるし、借りる側の評価が悪ければその人に部屋を貸そうという人もいなくなる。また、実際にサービスを利用した人しか評価をつけられないから、ステマや自演も入り込めないわけです。
よくある、夜の街や途上国のボッタクリというのは、騙す側と騙される側がワンオフ、つまり、1回きりの関係だから最終的に相手にどんなに悪く思われようが構わないわけですが、AirbnbやUberでは過去の評価が蓄積され可視化されるので悪いことやあくどいことはしたらしただけ損なのです。
シェアリング・エコノミーについて、たまにシェアリング・エコノミーは性善説に立っていて、その前提が崩れたら終わる、みたいなことを言う人がいるのですが、単に評判で信賞必罰されるようになっているだけで、性善説は関係ありません。
サブタイは村上龍のエッセイ集の題名からお借りしました(と言いつつ、リンク先はKindle版なのでタイトル変わってるけど)。
安全の問題は公的個人認証サービスが解決する
実はこうした評判による信賞必罰システムを後押しするのが、マイナンバーの個人番号カードに内蔵される電子証明書による公的個人認証サービスです。詳しくはこちらの記事をどうぞ。
公的個人認証サービスが普及すれば、ネット上での成りすましや、捨てアカを用いたスパム行為を行うことがとても難しくなります。なぜなら、電子証明書による公的個人認証は、現実の自分とネット上の自分を同一であると証明するためにあるからです。
当然、ネット上で良くないことをすれば、その評価はそのまま現実の自分に跳ね返ってきます。ネットサービスによっては、アカウントの停止やそのサービスからの永久追放もありえます。これまではそのアカウントを捨てて新しいアカウントで一から始めればよかったわけですが、電子証明書そのものがブラックリストに載ってしまうと、もう二度とそのサービスに参加することはできなくなります。
公的個人認証サービスは、AirbnbやUberのようなシェアリング・エコノミーサービスと非常に相性がいいと思わるので、本格解禁にになれば、おそらく活用してくるのではないでしょうか。
もちろん、評判だけで完全な安全性を確保できるとは限りませんが、じゃあ、旅館やビジネスホテルは100パーセント安全なんですか? って話です。
いずれにせよ、イノベーションにより既存の産業が影響を受けるなんて当たり前のことなんだから、既得権を守るより、今のうちからアマチュアとの戦いに備えておいたほうがいいと思うのはわたしだけでしょうか。