労働基準法の定めにより、年次有給休暇は付与から2年で消滅時効にかかります。それ以前に取得して使い切れなかった年次有給休暇は、労使間で別途定めがある場合は別ですが、法律上は2年より前に付与された年次有給休暇は残っていても使えないわけです。
よく日本の労働環境では年次有給休暇が取りづらいと言われており、実際消化率も高くないので、前年度分を余らせていることも少なくありません。
で、この年次有給休暇なのですが、実は、労働基準法上には、取得の際にその日数を前年度分から消費すべきか、本年度分から消費すべきか、といったことが書いてありません。
通常、といいますか、一般の人間の感覚からすると、前年度分から消費するのが普通のような気がしますが、法に定めがない以上、就業規則にきちんと定めを入れれば、本年度分から消化しても法違反に問われることもありません。
年次有給休暇を本年度分から消化するとは?
本年度分から消化するというのはどういうことといいますと、例えば、使ってない年次有給休暇の日数が前年度分と本年度分合わせて40日(勤務7年6ヶ月以上の最高付与日数が20日の2年分)、という労働者がいたとします。
その労働者がそのうちの5日を本年度のうちに消化した後、次の付与日(次年度)を迎えると、その付与日から向こう1年間の年次有給休暇の付与日数は「本年度の残り15日+次年度分の20日」を合わせて「35日」となります。
これが、前年度分から消化する場合だと、例え、5日分を消化したとしても、次年度には繰り越されない年次有給休暇の付与日数からの消化なので本年度分は20日のまま。例え、次年度を迎えても「本年度の残り20日+次年度分の20日」で本年度同様、次年度も40日分が付与されます。
こういう話を聞くと経営者や人事・労務担当者の中には喜ぶ方もいるかもしれませんし、労働者の中には嫌がる人も多いでしょう。しかし、ことはそう単純でもありません。
年次有給休暇をムダにしないための本年度消化
本年度分から消化する、ということは本年度分を消化しないことには前年度分を消化できないということです。また、例え、前年度分の残りがない場合でも、本年度分が次年度分に持ち越された瞬間から同じことが起こります。
実質的な年次有給休暇の消化期限が2年から1年に短縮されるわけです。
よって、さっさと消化しないとせっかく取得した年次有給休暇が無駄になるわけですが、となると、どうせ持ち越されるから、と高をくくって年次有給休暇を消化していなかった労働者の中には、さっさと消化しようと考える労働者も出てきます。
逆に言えば、年次有給休暇の消化率の悪さに悩む企業の場合、積極的に本年度分から消化するよう規定を変えた方が良いわけです。
当然、規定を変えるだけでは意味がないので、同時に「さっさと消化しないと年次有給休暇なくなるぞ」と従業員にアナウンスを行っていく必要はあります。1年で有給は無駄になる、ということを周知して、さっさと年次有給休暇を消化しようという労働者を増やしていくわけです。
(通達や判例等がないので、断言はできませんが、このような年次有給休暇取得を促すための変更であれば、就業規則の不利益変更と取られることはないはずです。)
年次有給休暇の本年度消化は、決してブラック企業のための法の抜け穴的な規定ではないので間違いないように。