労務管理と行動経済学

労働者は将来の昇給や賞与より1ヶ月先の時間外手当を好む

2015年12月15日

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久々に労務管理と行動経済学。ブログのタイトルから行動経済学を外したからといって、別に行動経済学に興味がなくなったわけではございませんからね。では、本題。

残業を減らす、というのは「言うは易し行うは難し」の典型的な事案で、経営者側に強い意志がないと無理です。特に、すでに残業が普通になっている職場で、経営者が減らせと言って労働者が勝手に減らしてくれるということはまずありません。なぜか。

 

確実にもらえるものが好き

まず、人間というのは「確実な利益」に弱い。これは行動経済学のプロスペクト理論により証明されていて、例えば、50%の確率でもらえる10万円より、100%もらえる4万円のほうが良いと考えます。期待値で見れば前者の方が1万円も得にもかかわらず、です。

時間外手当というのは、きちんと払われないような違法企業(あえて、ブラック企業とは書かない)を除けば、残業をやったらやっただけ確実に得ることのできる賃金なので、この要件に当てはまる、だから減らない。

 

早くもらえるものが好き

では、過剰な残業時間を人事考課のマイナス対象にする方法はどうでしょうか。

先に言っておきますが、残業したことに対して罰金を課したりするのは労働基準法違反です。定額だろうと、定率だろうと、です。

なので、残業時間を人事考課や査定のマイナス評価の対象にするわけですが、これも普通にやるとあまりうまく行きません。

なぜなら、賞与にしろ、人事考課による昇格昇給にしろ、1ヶ月に一度必ずもらえる賃金(時間外手当)と違い、もらえるタイミングも遅ければ、確実にもらえるという確証もない。

人間には確実にもらえるものが好き、という特性の他に、なるべく早くもらえるものが好きという特性があります。例えば、1年後に10万円もらうよりも、今日もらえるなら1万円でもいい、と考える人は世の中意外と少なくないわけです。

ここまで極端な例でなくても、今日もらえる額が9万円ならどうですか? 1年待って10万円もらえるなら、利率は年約11%という高利率なのですが、今すぐ9万円もらいたいという人はきっと多いでしょう。

こうした人間の傾向もプロスペクト理論同様、経済学の実験で明らかになったものです。

 

その制度は残業よりも魅力的か?

残業時間を削減したとしても、賞与に反映されるのは半年か1年に1回で、いくら反映されるかもわからない。人事考課による査定での昇給や昇格はそれ以上の期間が空くかもしれない。それなら残業代もらったほうが早くもらえるし確実。

労働者からすると、多少損しても、早くもらえるものは早くもらいたいし、早くもらうことが結局は確実にもらえることに繋がるのだからそちらを選ぶのはある意味普通なのです。

冒頭で、残業を減らすには経営者の強い意志が必要だと述べたのはこのためです。

残業を減らすには、特に労働者が進んで残業を行うような会社で残業を減らすには、新たな規則や賃金・人事制度が残業を行うよりもよっぽど利益がある、ということを示さないといけない。しかも、示すだけではダメで、実際にその制度を運用していく必要がある。

制度を作るだけならコンサルなどに外注できますが、実際に運用するとなると中小企業の場合、やはり、経営者が先頭に立っていかなければうまくいくことはないでしょう。

 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 3冊の著書のほか「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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