最近のゲームは、ネットを通じて遠くの人と対戦できるのが当たり前となっています。
ただ、上級者と初心者が対戦をしたら、初心者がボッコボコにされるのは自明の理。
で、人間、負けてばっかだとどんなに面白いゲームも楽しいとは思えません。
それもあって、ネット対戦のあるゲームではランク制度が導入されているのが普通です。
プレイヤーの実力を「ランクマッチ」、通称「ランクマ」にてランク付けし、近い実力の人同士が当たりやすくなるようにしているわけです。
負けて悔しいのにポイントも減るダブルパンチ
ランクマのランク付けの方法はゲームによって様々ですが、勝てばランクポイントが増えて、負ければランクポイントが減る、そして、一定のポイントに到達したらランクが上がる、という部分は基本的に共通です。
ただ、勝ってポイントが増えるのはまだいいのですが、負けてポイントが減るというのは結構なストレスだったりします。
ゲームとはいえ、そこは真剣勝負、負けるのは手を抜けば簡単ですが、勝つのは、まあ、大変。
そんな大変な思いをして一生懸命稼いだポイントが負けると減らされるわけです。
対戦で負けてただでさえ悔しいのに、ポイントも減るというダブルパンチ。
このポイントが減るというストレスのせいで、人によってはネット対戦はするけどランクマッチをやらないという人もいるほどです。
損失回避性
で、このランクマッチで負けてポイントが減る、というストレスの大本は何かといえば、それは人間の損失回避性にあると考えられます。
実は、人間は得をすることよりも、損をすることを嫌がる性質を持っています。
例えば、多くの人にとって1万円を得る喜びの大きさと、1万円を失う痛みの大きさは同じではありません。1万円を失う痛みの方が大きく感じるようになっています。
(このあたりはの詳しい話は昔書いた行動経済学関連の記事を読んでいただくか、カーネマンのファスト&スローを読んでいただければと思います)
ランクマッチのポイントについても同様だと考えられ、ほとんどの人にとっては、ポイントが増える喜びよりも減る痛みの方が大きいわけです。
ポイントが減る痛みを緩和するためにゲーム側がしていること
こうしたことから、多くのゲームではこうしたストレスを和らげるため、以下のような措置が取られていることが多いです。
- 一定のランクに行くまではポイントが減らなかったり、ランクが下がらない
- 1試合ごとのポイントの変動を見せず、ランクの変動があるときだけ告知する
- 負けたときに減るポイントよりも、勝ったときに増えるポイントが多い
1.一定のランクに行くまではポイントが減らなかったり、ランクが下がらない
こちらは比較的多くのゲームのランクマッチで見られる形式で、他の2つと併用されることも少なくありません。
ポイントが減らないので、負けたら悔しいかもしれないけれど、損は感じないというわけです。
そもそもランクが低い場合というのは、まだそのゲームを始めたてで慣れていないことも多いので、チュートリアルの意味合いも兼ねて、ポイントを減らさないという措置をしているともいえます。
2.1試合ごとのポイントの変動を見せず、ランクの変動があるときだけ告知する
こちらはランクを○段のように、段位形式にしていたり、ランクが細かく分かれているゲームでよく見られます。
1試合ごとの勝敗によるポイントの変動は、プレイヤーからは見えないように行い、ランクが上がる、もしくは下がるところまでポイントが変動した場合のみ、この試合は昇格戦ですよ、この試合は降格戦ですよ、とプレイヤーに告知するのがこのタイプ。
ポイントの増減を隠すことに効果なんてあるの? と思った人は、現金とクレジットカードで考えてみてください。
現金だと物を買うたびにお金が減っていくのが見えるので、買い過ぎに対して歯止めを効かせやすい。
でも、クレジットカードだとそれが見えないので、ついつい買い過ぎちゃうでしょ?
これと同じで、減ってることが直接見えないと人間の感覚は鈍ります。
そのため、裏でポイントが減っていても損を損と感じづらくなるのです。
3.負けたときに減るポイントよりも、勝ったときに増えるポイントが多い
3つ目のこちらは「ザ・損失回避性」とも言えるべき措置ですね。
増えるお金と減るお金が同額であっても、それに伴う喜びや悲しみの大きさは同じではないというのはすでに述べた通り。
では、これを同じにするにはどうしたらいいかといえば答えは簡単。
増える分をより増やして、減る分についてはより減らないようにしてやればいいわけです。
ただし、この形式の場合、下手な人でも数をやればランクが上がってしまいます。
そのため、ランクがプレイヤーの実力を反映しないという問題が発生します。
こうしたことを防ぐために、ランクが上がるごとに勝ったときに増えるポイントを減らし、負けたときのポイントを増やすということをするゲームが多いです。
スプラトゥーン3のランクマシステムを掘り下げて考える
さて、ずいぶんと前置きが長くなってしまいましたが、ここからはスプラトゥーン3のランクマッチの話をしましょう。
今年の9月に発売され3日間で350万本売れたとされるスプラトゥーン3のランクマッチの仕様は、実はかなり特殊です。
特殊ですが、上に挙げた3つの要素はすべて含まれています。
まず、一定のランクまではポイントが減ることはないですし、ランクダウンに至っては、最高ランクですらありません。
また、勝ち負けのポイントの配分についても、基本的にランクが低いほど勝ったときに増えるポイントが多く、負けたときのポイントは少ない、と考えて問題ありません。
ランクマをするにはランクポイントを支払う
では、ポイントの変動の部分についてはどうなっているかというと、ここがかなり特殊です。
というのも、スプラトゥーン3では、ランクマッチを行うのにランクポイントを支払う必要があります。
まるでゲームセンターの筐体に100円を入れるような感じですが、わたしの知る限り、こんな制度は他のゲームでは見たことがありません。

「194P-55P」なので、実質的なランクマ開始時点でのポイントは139P
「5勝」するか「3敗」するまでポイントがいくら増加するかはわからない
一度ランクポイントを支払うと、「5勝」するか「3敗」するまでランクマを続けることができます。
マリオで残機がなくなってゲームオーバーになるか、一定の面に進むまでゲームが続けられる、といったイメージですかね。
そして、「5勝」するか「3敗」するまでのあいだ、ポイントの増加がどうなっているかはプレイヤーにはわかりません。
「5勝」するか「3敗」すると、もらえるポイントが確定
そして、「5勝」もしくは「3敗」した段階で、もらえるランクポイントが確定します。
ちなみに「0勝3敗」でも、もらえるポイントがマイナスになることはありません。
それどころか、負け試合であっても、プレイヤーの試合中の頑張りをポイントに換算するシステムがあるため、ポイントが全くもらえないということもまずありません。

今回の結果は4勝3敗。200Pもらえました。
ランクポイントを支払って、再びランクマへ
ランクポイントの確定が終わったら、もう一度ランクポイントを支払うことで、次のランクマに参加することができます。

139Pに200Pを足して339Pですが、次のランクマに行くにはまた55Pを支払う必要があります。
勝てば増え、負ければ減るのは同じだが・・・
ランクマッチの基本は踏襲
勘のいい人ならわかると思いますが、「「5勝」もしくは「3敗」した段階でもらえるランクポイント」が「ランクマに参加する際に支払うポイント」よりも多ければ、ポイントはどんどん増え、ランクはどんどん上がっていきます。
逆に「「5勝」もしくは「3敗」した段階でもらえるランクポイント」が「ランクマに参加する際に支払うポイント」よりも少なければ、ポイントは減り、ランクは上がりません。
なので、ランクマのシステム全体で見れば、勝てばポイントが増えてランクが上がる、負ければポイントが減ってランクが上がらない、というランクマッチの基本は踏襲されています。
とことん、負けのストレスを排除
しかし、ポイントが減るタイミングは負けたときではなくランクマに参加するときなので、対戦で負けて減ってると感じにくい。
そして、ポイントの精算も「5勝」もしくは「3敗」するまで行われないので、一回一回の敗戦で損を感じづらい。
それどころか「5勝」するか「3敗」するまでランクマが続くので、1回負けたけど、あと2敗する前に5勝すればいいか、と気を取り直すこともできるようになっています。
勝ちは「5」なのに、負けは「3」なのもポイントですね。
これがどちらも「5」だったら、負けが込んで「0-4」とかになったら、次の試合とかやる気は出ないでしょうし、集中力も持続しない。
このように、負けたらポイントが減る、という事実を、あの手この手で、できる限りそうとは感じさせないようにしているわけです。
見せ方を変えれば感じ方は変わる・・・、が
ただ、あくまで、見せ方を変えているだけといえばだけ。
そのため、物事の全てを合理的に、経済的に考えられる人(エコン)の場合、こうした誤魔化しに惑わされることはないでしょう(そんな人がゲームなんてするかは別にして)。
それでも問題がないわけではない
また、スプラトゥーン3は前作の2と比較して、(ゲームが下手でも)ランクが上がりやすい点は問題点とまではいえないまでも痛し痒しのところがあります。
ランクが上がりやすいと、下手な人でも続けようと思える反面、ランクが実力を反映しないという問題が発生するからです。
これにより、同じ最高位のランクのプレイヤーであっても、その実力はピンキリ、となってしまいます。
ただ、この点については将来的に実装が予定されている、さらに上のランクの追加で、色々と変わってくるのかもしれませんね。
今日のあとがき
なかなかブログを更新できてないのに、書いたと思ったら労務に関係ない記事ですいません。でも、どうしても書きたかったのです・・・。
ちなみに、自分がここ2年くらいメインで遊んでいるストリートファイターVというゲームのランクマッチは、本文で書いた損失回避性についてはまるで考えられていません(上に挙げた3つの要素全てなし)。
なので、始めたばっかのときが一番心折れそうになりながら、ランクマを回してたのを覚えています。
そんなランクマのシステムなのに、未だにストリートファイターVは対戦格闘ゲームの中では圧倒的に人口がいるわけですが、それはストリートファイターというブランドのなせる技なのか、eスポーツシーンがある程度しっかりしてるからなのか。
来年発売のストリートファイター6では、さすがにこの辺に手が加わるようですが、実際にどうなるのかは見てみないとわかりませんね。