副業・兼業 雇用保険制度

【令和4年最新版】副業で法的に会社と労働者が気をつけるべきこと【雇用保険法編】

2022年1月31日

過去記事の「副業について法的に会社と労働者が気をつけるべきこと」というシリーズに関して、古くなった内容の刷新、現行法にあった内容にブラッシュアップするためのシリーズ。

今回は雇用保険法編です。

なお、本シリーズで言う副業・兼業とは原則、個人・フリーランスで副業・兼業をする場合は含めず、複数の会社で雇用されて働くダブルワーク形式のものをさすので、あらかじめご了承ください。

 

原則は一つの事業所で加入

雇用保険と副業の大原則は、複数の会社で加入することはできない、というもの、でした。

なぜ過去形なのかは次の項で解説します。

雇用保険では原則、労働者が複数の会社で働く場合、労働者本人にとっての「主たる事業所」で加入することになります。

要するに本業の方で入るわけです。

一つの事業所でしか加入できないので、雇用保険の給付に関わる賃金についても当然、一つの事業所だけで見ますの。つまり、複数の事業所で働いていたとしても合算はありません。

 

一部65歳以上の労働者は、2つの事業所で加入可能に

マルチジョブホルダー制度

以上が、雇用保険と副業の原則なのですが、実は今年の1月より65歳以上の労働者に限り、2つの事業所での雇用保険の加入が可能になりました。

これを一般にマルチジョブホルダー制度、といいます。

65歳以上の労働者限定なのだから「オールドマルチジョブホルダー制度」の方が正しい気がするのですが、まあ、それはおいておきましょう。

 

副業・兼業のための制度、というよりは雇用保険に加入できない労働者への救済措置

実はこのマルチジョブホルダー制度、副業・兼業を促すというよりは、所定労働時間が短くて雇用保険に入れない、という労働者を救済するという色合いが強いです。

というのも、この制度では、労働者が複数の事業所で働いている場合、いずれも労働時間が週所定労働時間20時間未満でないといけないという条件があるからです。

なので、一つの事業所だけで雇用保険に加入できる労働者については、他の事業所で雇用されていたとしても、65歳以上であってもこれまで通り、一つの事業所だけで雇用保険に加入することになります。

 

事務作業の面からの制限も

また、2つの事業所の週所定労働時間の合計が20時間以上でないと加入できない、という制限もあります。

これは実は、3つ以上の事業所で週20時間未満で働いている場合も同様です。

つまり、3つ以上の事業所で週所定労働時間20時間未満で働いている場合、その中から2つを選んで雇用保険に加入しないといけないわけです。

そのため、3つの事業所全てで週所定労働時間が7時間という場合、合計すると週21時間となるものの、マルチジョブホルダー制度では2つの事業所の労働時間しか合算できない(合算しても週の労働時間が14時間にしかならない)ため、マルチジョブホルダー制度を使っても雇用保険に加入することはできないということも起こりえます。

なぜ、2つの事業所しか選択できないかというと、これは事務作業の軽減を目的としています。

 

マルチジョブホルダー制度で雇用保険に加入する条件

このマルチジョブホルダー制度における雇用保険加入条件をまとめると以下の通りとなります。

  1. 事業主の異なる複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること
  2. 2つの事業所(1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満であるものに限る。)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること
  3. 2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること。

 

マルチジョブホルダー制度には他にも細かい小難しい要件があるので、詳しくはマルチジョブホルダー制度について解説している過去の記事をご覧いただければと思います。

 

将来的には65歳未満も

現在は65歳以上に限定されているマルチジョブホルダー制度ですが、これはまずは試験的に65歳以上で運用してみる、という形を取っています。

5年程度様子を見るようなので、それ以降は65歳未満にも本制度の適用があるかもしれません。

 

雇用保険から副業がバレたくない場合

マルチジョブホルダー制度以外についても見ていきましょう。

労働者の中には副業していることを会社にバレたくないという人もいると思います。

ただ、雇用保険の場合、雇用保険に加入したまま他の事業所で雇用保険の加入手続きを行うと、雇用保険のシステムでエラーが出ます。

このエラーは雇用保険に加入してる側の事業所に伝えられます。

これは本来は、あなたの会社を辞めた労働者が他の会社で雇用保険に入ろうとしてるけど、あなたの会社が喪失手続きをしてないからそれができない、ということを伝えるためののです。

しかし、本業先からすれば、会社を辞めてもない社員の資格喪失をしろ、なんて連絡は明らかに不審ですから、ああ、これはどこか別の会社で働き始めたんだなあ、とわかります。

加入条件を満たしているのに加入しない、ということは雇用保険では原則できないので、副業してることが本業の会社にバレたくなかったら、労働時間を週20時間未満に抑えるしかありません。

 

重要なのは自社で入るのか、副業先で入るのかだけ

一方、会社からの視点で見ると、ダブルワークしている労働者について、特別、雇用保険でなにか気をつけることがあるかというと、その労働者がマルチジョブホルダー制度の対象にならない限り、特にはありません。

繰り返しになりますが、雇用保険は複数の会社で加入することができません。加入していない方の会社の賃金や労働条件が加入している方の会社に影響を与えるということもありません。

なので、自社で雇用保険に入るのであれば、他の雇用保険に加入している労働者と同様に、そうでないのであれば他の雇用保険に加入していない労働者と同様に手続き等行えばいいわけです。

 

まとめ

マルチジョブホルダー制度の対象は非常に狭い

マルチジョブホルダー制度の導入によって大きく変わったように見える雇用保険の副業・兼業ですが、実際にはほとんど変わっていません。

マルチジョブホルダー制度の範囲は「65歳以上」かつ「複数の事業所で週所定労働時間20時間未満で働いている」人たちですからね。

 

変わったようで、全然変わってない

なので、雇用保険の副業・兼業については、マルチジョブホルダー制度に該当する人がいないのであれば、働き方改革以前と変わるところはないと言えます。

以下、まとめです。

  • 雇用保険は、マルチジョブホルダー以外、複数の会社で加入することはできない
  • 雇用保険は「主たる事業所(本業)」で加入する
  • マルチジョブホルダー以外は本業と副業で賃金の合算は行わないので、保険料と給付額は本業の賃金が基準
  • 本業先と副業先の両方で雇用保険に加入すると、副業がバレる
  • マルチジョブホルダー以外であれば、本業先で雇用保険に加入しているのであれば、本業先の会社が気をつけるべきことは特にない

 

今日のあとがき

昨年の後半頃から速読の練習をし出したのもあって、本を爆買いしております。

しかも、これまで本を読むのは電子書籍が主だったのですが、速読には紙の本が向いているということで、紙の本を爆買い。

で、あっという間に、本棚がいっぱいになったので、すでにカラーボックスを2個買い足しているのですが、今年中にもうあと2つ、3つは買うかも。

時間に余裕ができたら、前みたいに書評も書きたいところです。

 

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 3冊の著書のほか「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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