副業・兼業

【令和4年最新版】副業で法的に会社と労働者が気をつけるべきこと【労働基準法編】

2022年1月5日

前回より、過去にやっていた「副業について法的に会社と労働者が気をつけるべきこと」というシリーズに関して、古くなった内容の刷新、現行法にあった内容にブラッシュアップするために始まった本シリーズ。

今回は労働基準法編です。

なお、本シリーズで言う副業・兼業とは原則、個人・フリーランスで副業・兼業をする場合は含めず、複数の会社で雇用されて働くダブルワーク形式のものをさすので、あらかじめご了承ください。。

 

「事業場を異にする場合」の労働時間の通算

副業・兼業において最もネックとなるのが、この労働基準法です。

なにせ、労働基準法には以下のような規定があるからです。

労働基準法
第三十八条  労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。

実は、ここでいう「事業場を異にする場合」というのは、使用者が異なる場合も含めるのかどうなのかで、解釈が分かれています。

というのも、使用者が同一の場合しか通算しないのであれば、同じ会社のA事務所で働いた時間とB工場で働いた時間を合算する、ということでしかありません。

しかし、使用者が異なる場合も通算するとなると、資本関係のない別々の会社で働いた分も労働時間を合算しないといけなくなるからです。

使用者が異なる場合も含めるかどうかについては、行政解釈・学説など諸説あるものの、少なくとも、厚生労働省は使用者が異なる場合も通算するという立場を取っています。

 

通算した場合の時間外手当の支払義務

時間的に後の会社が払う説

通算した労働時間が法定労働時間内(1日8時間、1週40時間内)であれば問題はありませんが、複数の会社で働く場合、なかなかそうはならないでしょう。

となると、法定労働時間を超えた分の時間外手当は誰が払うのか、という問題が発生します。

こちらも、諸説あって、昔の厚生労働省の行政通達では、1日もしくは1週間のうち時間的に後で働いた会社にその支払義務があるとしていました。

つまり、朝9時から働いて夕方6時までフルタイムで働き、夜8時からどこかでバイトする、みたいな副業の場合、夜8時からのバイトの労働時間分は時間外になるというわけです。

 

契約が後の会社が払う説

一方、現在の厚生労働省が時間ではなく、契約が後の会社に支払義務があるとしています。

つまり、さっきの例で、実は夜8時からのバイトをずっと方が先に始めていて、その後、昼のフルタイムの職を見つけたけれども、店長の頼みでなかなかバイトの方をやめられていないという事情があったとします。

この場合、労働時間を通算して法定労働時間を超えた場合の時間外手当の支払義務は、契約を先に結んだのは夜のバイトの方なので、支払義務はその労働者が昼にフルタイムで働いている会社にあるということになります。

 

労働時間の通算には手間がかかる

さて、労働時間を通算するにしろ、時間外手当の支払をしないといけないにしろ、それ以前の問題があります。

それは、労働者から見て本業側の会社にしろ、副業側の会社にしろ、もう一方の会社の労働時間を把握することは非常に困難なことです。

会社が、もう一方の会社の労働時間の把握をするには、基本的に、労働者から報告してもらうしかありません。

ただ、報告してもらうにしても、毎日報告となると労使共に負担となるし、月単位となると途中で労働時間の調整がきかないため、通算の時点で労働時間の上限規制の範囲を超えていたことがわかり手遅れ、ということが起こりえます。

 

労働時間通算の「管理モデル」とは

こうした問題の解決のために考え出されたのが「管理モデル」です。

この管理モデルは、簡単に言うと、本業の会社(契約が先の会社)と副業の会社(契約が後の会社)それぞれで、あらかじめ労働時間上限を設定するというものです。

それぞれで設定する労働時間の上限については、以下のような決まりがあります

  1. 本業の会社では1か月の法定外労働時間を定める
  2. 副業の会社では1か月の労働時間(所定内外問わず)を定める
  3. 1.,2.を合計した時間数が、単月 100 時間未満、複数月平均 80 時間以内となる範囲内で労働時間数を設定しなければならない

 

時間外労働の上限規制違反は回避できるが・・・

例えば、本業の会社では1か月の法定外労働時間を40時間すると設定し、一方、労働者から見て副業先となる会社では(所定内外の労働時間合わせて)1か月30時間働くと設定したとします。

この場合、本業の会社ではあらかじめ定めた40時間の法定外労働時間を超えることなく働かせていれば、副業先の労働時間が何時間であれ、本業の会社が時間外労働の上限規制を超えて働かせるということはありません。

また、副業先となる会社についても30時間の範囲で働く分には、労働基準法に違反することはないわけです。

ただし、注意しないといけない、というかこの管理モデル最大の問題点なのは、副業先となる会社で働く時間分(この例でいうと30時間分)はすべて割増賃金の対象となることです。(すべて割増賃金の対象であるから、所定内外の労働時間の区別を行わないわけです)。

 

負担を負うことになる副業側が、副業・兼業を認めるか

確かに、管理モデルを使えば、労働者に逐一、もう一方の会社の労働時間を報告させなくていいし、時間外労働の上限規制に違反する心配もない。

しかし、金銭的な負担は全て副業先の会社が負うことになります。

となると、本業側が副業・兼業を解禁したとしても、本業を持つ労働者を副業側が雇うわけも、ましてや「管理モデル」を受け入れるわけもないわけです。

ちなみに、わたしの知る限りでは管理モデルを使ってる会社は見たことも聞いたこともありませんし、わたしから導入を勧めたこともありません。

 

まとめ

副業・兼業と労働基準法の関係については、上記のような感じなので、正直まとめろと言われても困ってしまうような状況です。

異なる会社での労働時間を通算するとなると、労働者はきちんと時間外手当がもらえるので得のように思えます。

しかし、労働時間を通算して時間外手当を支払わなければならないとなると、そもそも副業として働こうとしてる人を会社は雇いたくないでしょう。

つまり、副業・兼業を禁止されてないにもかかわらず、労働者が副業したいのにできないという状況が起こるわけです。

こうしたジレンマがあるため、行政側がその解釈を改めない限り、会社側は副業・兼業をおおっぴらに許可できるのは個人・フリーランス型のみとせざるを得ないし、労働者側からするとダブルワーク型の副業・兼業は「こっそり」やらないといけないという状況は今後も続くでしょう。

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  • この記事を書いた人

社会保険労務士 川嶋英明

社会保険労務士川嶋事務所の代表。「いい会社」を作るためのコンサルティングファーム「TNC」のメンバー。行動経済学会(幽霊)会員 社労士だった叔父の病気を機に猛勉強して社労士に。今は亡くなった叔父の跡を継ぎ、いつの間にか本まで出してます。 3冊の著書のほか「ビジネスガイド」「企業実務」などメディアでの執筆実績多数。

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