選択的週休3日制を実務的な観点から徹底解説するシリーズ。
今回は選択的週休3日制の導入にあたって、制度を設計する際に気をつける点について見ていきます。
この記事の目次
選択的週休3日制の制度設計の基本
選択的週休3日制は、法律で「こういう制度にしなさい」という規制があるわけではありません。
そのため、他の法律に違反しない、ある程度、会社の自由に制度設計をすることができます。
ただ、会社の自由に、といわれて広い海原に放り投げられても困るという人も多いと思うので、ここからは制度設計において重要な点をピックアップして解説していきます。
(1)従業員側が週休の日数を変更する頻度と週休3日とする期間
まず、選択的週休3日制の制度設計において、従業員側が「どの程度の頻度で週の休みの日数を変更できるようにするか」を考える必要があります。
極端な話、1週間ごとに休みを従来通りとするか3日とするかどうかを決める、という制度も設計上は可能なわけですが、変更の頻度が多いと、様々な面で会社や他の従業員の負担が増えます。
逆に、一度変更したら二度と変えられない制度にしてしまうと、今度は試しに変えてみるということを従業員側ができないので、本制度を活用する従業員が極端に少なくなります。
そのため、一度従業員が週休3日を選択したら半年や1年、もしくは週休3日を選択する理由となった事由が終了しない限りは週休3日のままとするなど、週休3日とする期間をある程度区切った方が会社としては運用しやすいかと思います。
また、期間を区切る以外の方法としては、日数の変更後は、従業員側が戻したいと申告するまで変えないという制度や、1か月の変形労働時間制の利用も視野に入れ、対象従業員が1か月ごと(変形期間ごと)に、次の月を週休3日とするかどうか選択するといった制度も考えられます。
(2)3日目の休日の曜日とその決定方法
3日目の休日の曜日
制度設計を行う上では、3日目の休日をどの曜日とするのか、そして、その曜日を会社側、従業員側のどちらが主体となって決定するのかについても考える必要があります。
まず、3日目の休日の曜日については、毎週月曜日や毎週金曜日といったように、常に特定の曜日を3日目の休日とするという方法と、週によって3日目の休日の曜日を変更するという方法が考えられます。
前者については、一度決定してしまえば、以降は基本的に変更しなくて済みます。また、その曜日を休みとする根拠についても、就業規則等に定めることで足ります。
一方、後者の場合、当該従業員の希望を毎週もしくは毎月聞いて休日の曜日を決定するシフト制のような形の他、会社カレンダーにより、あらかじめ1年間の休日を定めておく場合に、月や週によって3日目の休日の曜日を決定しておく方法が考えられますが、いずれも前者に比べると会社の負担は増します。
休みの曜日の決定方法
次に、3日目の休日の曜日を会社側、従業員側のどちらが主体となって決めるかについては、会社側が主体となる場合は、あらかじめ、選択的週休3日制を選択するならこの曜日、と就業規則等に定めておく方法が考えられます。
一方、従業員側が主体となる場合については、個々の従業員に合わせて、その希望を聞きながら労使で協議する必要があります。
このように、3日目の休日の曜日決定に関しては、会社が主導権を握るような形にすればするほど会社の労務管理は楽になりますが、それが従業員側の望む形とならない場合、制度を利用する従業員は減ることになります。逆に、従業員側の選択を尊重する制度設計をする場合、会社の負担や制度を利用しない従業員の負担が増えることを考慮する必要があるでしょう。
その他、国民の休日や祝日、会社カレンダー等により、選択的週休3日制に関係なく週の休みが3日以上ある週の扱いについてどうするかも検討する必要があります。
(3)対象者の限定と選択目的による制限
選択的週休3日制を導入する際、会社として、特定の部署や特定の業務を行う人たちを対象にしたくない、といった場合があるでしょう。
また、育児や介護、ボランティア等のためなら許容できても、従業員個人の趣味のためや、ただ単に休みたいからという理由で週休3日を選択するのであれば拒否したい、と考える会社もあると思われます。
では、対象者を限定したり、週休3日を選択する目的によって制度利用の制限を設けたりすることについて、法的に何か問題はあるのでしょうか。
選択目的による制限
まず、目的による制限については、基本的には会社の裁量として認められると考えられます。
ただし、目的による制限については、法的なこと以外に、運用上の問題として、会社の定める理由や目的に該当する事由がないにも関わらず、単に週休3日としたいがために、虚偽の目的や理由で週休3日を申請してくる従業員が出てくることが考えられます。
こうしたことを防ぐには、申請の段階で週休3日を選択できる事由が本当にあるかをチェックする必要があります。
加えて、実際に週休3日での働き方が始まった後にこうした虚偽が発覚した場合に、虚偽の申請があった場合、週休3日の許可を取り消すことができるよう制度設計しておく必要があります。
対象者の限定
対象者の限定については、部署や業務による限定については特に問題はないかと思われます。
一方で、同一労働同一賃金の観点から、正規と非正規といった区分による制限は、福利厚生に関する労働条件の相違ということで問題となる可能性はゼロではありません。
ただし、非正規の従業員はもともとの週の休みが3日以上ということも多いため、実際に問題となることは少ないと考えられます。
(4)賃金と労働時間
前回の記事でも、また今回のシリーズでも何度か触れていますが、選択的週休3日制の制度設計をする上で最も重要であり、問題となりやすいのが賃金と労働時間の関係です。
選択的週休3日制を導入する場合、賃金、労働時間の観点から以下のような形が考えられます。
② 賃金維持・労働時間減少型
③ 賃金・労働時間維持型
① 賃金減額・労働時間減少型
賃金減額・労働時間減少型については、休日が増える分、労働時間が減るので賃金も減らすという、ある意味一番わかりやすい形となっています。
ただ、賃金が減るということは単純に所得が減るということだけでなく、将来もらえる年金額や退職後の雇用保険の基本手当等にも影響が出るということです。
なので、そうした点から、週休3日を選択することを躊躇する従業員が出てくることが考えられます。
② 賃金維持・労働時間減少型
賃金維持・労働時間減少型は、①の賃金減額・労働時間減少型とは、逆に休日を増やし、労働時間が減少したとしても、賃金を減らさないとするものです。
①の場合、労働時間を減らして賃金も減らしているので、労働力が足りない場合、減らした賃金で人を増やすということも可能です。
しかし、こちらの方法で同じことをすると、ただただ人件費がかさむことになります。
そのため、賃金維持・休日増加型を選択する場合、業務効率を改善し、制度導入前と同等の生産性を維持することが前提といえます。
一方で、業務効率の改善が上手くいかない場合、週休3日を選択した従業員の労働日の労働時間が長くなったり、週休3日を選択しなかった従業員の負担が増えたりするなどの問題が発生するおそれがあります。
③ 賃金・労働時間維持型
賃金・労働時間維持型は、変形労働時間制を利用して、休日を増やす代わりに、それ以外の労働日の労働時間を延長するという方法です。
この場合、週休3日を選択した従業員の労働時間は選択前と変わることはなく、生産性も同様に変わらないように思えます。
しかし、実際には1日の労働時間が増えればその分、集中力が持続できず業務上のミスや労災発生のリスクが高まると考えられます。
加えて、1日の労働時間が増加すれば、従業員のプライベートな時間や睡眠時間が削られるため、それが原因で従業員が健康を害する可能性も否定できません。
変形労働時間制の活用が前提
また、賃金・労働時間維持型は1日の労働時間を延長する関係上、特にフルタイムの従業員の場合、1日8時間を超えて働かせることになるため、変形労働時間制を利用することが前提となります。
そのため、変形労働時間制を導入し、各労働日の労働時間を設定する手間が発生します。特に1年単位の変形労働時間制の場合、一般的には、労働日を変更することはあっても1日の労働時間まで変更することは稀なため、慣れない業務が発生することになる会社もあるはずです。
その他、1年単位の変形労働時間制やフレックスタイム制に関しては、変形期間の途中から選択的週休3日制を開始したり、途中で週休3日をやめ、変形労働時間制の対象外となったりすると、時間外手当の精算を行う必要が出てきます。
こうしたことを避けるには、変形労働時間制の起算日の前に週休3日とするかどうかの選択を行い、特別な事情がない限り、変形期間中は休日の日数を変更できないようにしておくといった制度設計が必要となります。
まとめ
制度設計に関しては、どのような制度にするにしてもメリット・デメリットが必ずあります。
そうした際に、どのメリットを重視し、どのデメリットに目をつむるかは、ひとえに会社の方針次第です。
つまり、選択的週休3日制は会社の方針がきちんとしていないと導入できない制度と言えるでしょう。
次がこのシリーズ最後となりますが、次回は、選択的週休3日制と他の制度の兼ね合いなど、1回目と2回目で解説しきれなかった部分を見ていきます。