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IT 労務問題(時事) 炎上

F-Secure社の件から考える、炎上案件は単なる労働者の私生活上の非行行為ではないという話

2015/12/09

自分と思想が異なる人間のFacebook上の個人情報をまとめたリストをネットに晒した男が、F-Secureというセキュリティ会社の社員(以下、K氏)だったということで大炎上した件の続きです。

その後、炎上事件を引き起こしたK氏は勤め先であるF-Secureを「依願退職」したそうなのですが、実はこの会社の対応もちょっとした炎上の燃料となってしまっています。

 

会社にとって都合のいい自己都合退職

依願退職というのは、要するに自己都合退職です。実は社員がなにか問題を起こした時に、自己都合で辞めてもらう、というのは会社としてはかなり都合がいい。

なぜなら、懲戒解雇の場合だと、労働裁判になった場合にその有効性を認められる可能性が低い。日本の裁判事情を考えると、そうした労働裁判になる可能性はほとんどないのですが、それでも、もしそうなった場合には非常に厄介になるというのが1点。

もう1点は、会社が労働者を会社都合で解雇してしまうと、しばらくのあいだ助成金がもらえなくなってしまうというのがあります。もちろん、労働者に責がある解雇の場合は別ですが、それを行政に対して証明するのは結構面倒だし、結果行政が認めてくれなかったら助成金がもらえなくなってしまう。

というわけで、いかに懲戒解雇に当たるようなことをやらかした労働者だとしても、自己都合で辞めてもらうほうが会社としては何かと都合がいいわけです。

 

ネットイナゴが求めるものは社会的断罪

しかし、炎上案件に群がるネットイナゴ(あんま流行んなかったね、この言葉)からしたら、そんな会社の都合は知ったこっちゃない。炎上案件で彼らが求めるストーリーというのは一つだけで、ネットでバカやらかして炎上した人間が社会的に断罪されることだけなのです。

今回の件で言えば、K氏が懲戒解雇されて損害賠償請求されるというシナリオです。

以前の記事でも書いたように、労働者の私生活上の非行行為に対する会社の懲戒がおよぶ範囲はかなり限定的です。なので、F-Secure社がそこまでしなかった、というよりできなかった理由はわからないでもありません。

しかし、炎上案件では、少しでも炎上元に友好的だったり庇うようなことをすると火の手はあっという間に庇おうとした側に向かってきます。そうしたことを避ける意味でも、会社としてはポーズだけでも「今後、告訴や損害賠償を請求することも検討する」とプレスリリースに書いておくべきだったでしょう。とにかく、わたしたちは「ネットイナゴ側」であることを示す必要があるのです。

 

勘違いを解く努力が全く感じられなかったプレスリリース

ただ、今回の件ではF-Secureの対応に他にも問題があったのは確かです。

例えば、以下のプレスリリース。

11/4のニュースについての続報

確かに本案件はK氏がFacebook上の個人情報を集めただけで、F-Secureが保持していた個人情報を漏らしたわけではないので、上記のリンク先のF-Secure社の言い分は正しい。

けれど、問題はそういうことじゃなくて、K氏がF-Secure社が保持する個人情報を流出させた、という誤解が蔓延していることです。

「セキュリティ会社の社員が個人情報をリスト化した」と聞いたら多くの事情を知らない人たちは「セキュリティ会社の社員が会社が保持する個人情報を流出させた」と勘違いする。これはカーネマンに言わせればシステム1の機能なので止めようがない。

しかし、そうした誤解を解く努力というか誠意が上記の文面からは全く感じられず、結果、上記の文章も炎上の燃料となってしまいました。

 

こうした結果、F-Secure社は炎上の巻き添えを食う形とはいえ大きな損害を現在進行形で受けていきそうです。マイナンバーのベンダーとして地方自治体のシステムに入り込もうとしてたみたいですが、こちらの地方議会議員のブログを読む限り、それも望み薄でしょう。

一方、F-Secure社が加盟しているということもあり、今回の案件でたびたび名前が上がっていた一般社団法人日本スマートフォンセキュリティ協会は、すでに警察にも相談するなど対策を取っているようですので、今回の件はまだまだ鎮火することはないのかもしれません。

本ブログでも、今後の動きに、企業の労務管理や危機管理に関するヒントのようなものがあればまた取り上げたいと思います。

 

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名古屋の社労士事務所、川嶋事務所の代表で、このブログの筆者。 新しいこと、もの、特にIT関連が大好きで、社労士としては会社・労働者のITトラブル対策・就業規則作成が得意分野。 2016年4月から9月まで中日新聞で「働く人を守る労働保険」を連載、開業社労士専門誌「SR」に寄稿するなど、メディアでの執筆活動も。