昨日に引き続き、働き方改革の復習、振り返り、今後の流れ等を確認していきたいと思います。
今回は同一労働同一賃金について。
実は、法律上では、同一労働同一賃金に関する動きというのはすでに終わっています。
すでに終わっている、というのは、2021年5月現在、改正法の施行が全て終わっているため、全ての規模・業種の会社が同一労働同一賃金の対象とされているということです。
この記事の目次
同一労働同一賃金に関する改正法はすでに全て施行済み
同一労働同一賃金の、もともとの改正法のスケジュールについておさらいしておくと、まず、大企業については2020年4月より同一労働同一賃金の対象とされ、翌2021年、つまり、今年の4月からは中小企業も同一労働同一賃金の対象となりました。
また、派遣労働者の同一労働同一賃金については、派遣元の企業規模にかかわらず2020年4月からの施行となっています。
繰り返しになりますが、同一労働同一賃金に関しては、すでに法律上は全ての会社が対応しなければならないものとなっています。
法律の条文だけを見てても同一労働同一賃金は始まらない
ただ、同一労働同一賃金に関しては、法改正以外の部分にも目を向ける必要があります。
なぜならば、会社が同一労働同一賃金を達成できているかどうかは、法律の条文とにらめっこしているだけでは判断ができないからです。
そのため、会社が同一労働同一賃金を達成し、同一労働同一賃金に関するリスクを低減するには、同一労働同一賃金に関する各判例や行政の指針にもあたる必要があります。
2つの最高裁判例と同一労働同一賃金ガイドライン
まず、同一労働同一賃金を考える上で、避けて通れないのがハマキョウレックス事件と長澤運輸事件です。
この2つの判例は、実は働き方改革関連法が成立する直前の2018年6月にその最高裁判決が出ており、日本版同一労働同一賃金に非常に大きな影響を、今もなお与え続けています。
そして、会社にとって同一労働同一賃金の道しるべといえる「同一労働同一賃金ガイドライン」が公表されたのは法改正後の2018年12月。
この同一労働同一賃金ガイドラインでは、改正された法律の内容により具体性を持たせるため、各種賃金項目における同一労働同一賃金の判断の仕方を例示しています(ちなみに、ハマキョウレックス事件と長澤運輸事件については、この同一労働同一賃金ガイドラインの内容にも大きな影響を与えました)。
同一労働同一賃金に関する流れをまとめると以下の通り
ハマキョウレックス事件と長澤運輸事件
↓
働き方改革関連法成立
↓
同一労働同一賃金ガイドライン公表
↓
改正法施行
2020年の最高裁判決で同一労働同一賃金の基準はさらに明確化
さて、ハマキョウレックス事件と長澤運輸事件以降、しばらく同一労働同一賃金に関する大きな判決は出ていませんでしたが、昨年10月になって立て続けに3件(厳密には5件)の同一労働同一賃金に関する判例が出ました。
そして、この3つの事件のうちメトロコマース事件と日本郵便事件では、同一労働同一賃金ガイドラインで曖昧な判断基準しか示されなかった「退職金」と「家族手当」について、一定の判断を下しています。(詳しくは拙著を)
加えて、昨年の3つ事件は「正社員」と「その正社員と異なる業務を行う非正規」の同一労働同一賃金に関する判断だったことも特筆すべき点でしょう。
というのも、ハマキョウレックス事件と長澤運輸事件は「正社員」と「正社員とほぼ同一の業務を行う非正規」の同一労働同一賃金を争ったものだったからです。
こうした昨年の3つ事件と、ハマキョウレックス事件と長澤運輸事件との特性の違いによって、同一労働同一賃金に関する曖昧だった部分の基準がより明確化されました。
そして、こうした基準の明確化は今後、同一労働同一賃金に関する判例が出れば出るほど進んでいくはずです。
まとめ
冒頭でも述べたように、同一労働同一賃金に関する法改正はすでに施行済みです。
そのため、会社は正規と非正規の同一労働同一賃金の達成に向けて動いていかないといけません。
ただ、同一労働同一賃金にはまだまだ曖昧な部分もあり、会社側が賃金制度を組み立てる際に、判断に困る場面も少なくなく、こうした場合には同一労働同一賃金ガイドラインや各種判例にあたる必要があります。
加えて、今後の判例次第では、セーフだと思われていた対応がアウトになる、ということも起こりえます。
よって、会社は今後も同一労働同一賃金に関する動き、特に司法の動きには注意が必要といえます。